【東畠先生の福祉用具コラム(第2回)】 車いすの利用
かつてない高齢社会を迎える日本。認知症高齢者が増え、多くの方にとって認知症ケアが他人事ではなく、自分事となる社会が迫っています。そんな中で、家族や介護者による認知症ケアをサポートし、認知症高齢者自身の「できること」を減らさないために手助けしてくれる存在として、今、福祉用具や支援機器に注目が集まっています。
このコラムでは、国際医療福祉大学大学院 准教授でいらっしゃる東畠弘子先生に、福祉用具の専門家の立場から、福祉用具や支援機器のいろはについて解説していただきます。第2回目の今回は、認知症高齢者にとっての車いすの利用についてお話いただきます。
認知症の方の車いす利用は特に注意
介護保険では様々な福祉用具が、1割の自己負担(所得により2割負担の人もいます)で借りることができます。その中でも利用の多いのが車いすです。利用者の中には認知症の人もおられます。
以前、私が福祉用具貸与事業所の福祉用具専門相談員に対して行った調査では、認知症高齢者の利用に関しては、ベッド柵に次いで車いすが事故やヒヤリハット(事故にはならなかったけれどひやりとした、はっとしたという経験)が多いという結果でした。
なかでも「車いすに乗ったまま急に立ち上がる」ことで転倒したり、転倒しそうになったというのが最も多くみられました。その他、自走式や電動車いすの利用で、「停止内で道路を進む」「タイヤをつかんで自走し、挟み込みそうになる」「行き先がわからなくなる」などがありました。
認知症の場合、ここがどこかわからない、今、車いすに乗っていることを忘れる、介助者が押している車いすで急に立ち上がると危ない、という場所や危険の判断や認識ができなくなります。車いすを選ぶときは、その人の状態に合ったものといわれますが 車いすでの心地の悪さが立ち上がるといった動作に表れているように、私には思えます。
利用するときは、安定性の良いものはもちろんですが、使用時の姿勢をリハビリ職種の方、あるいはシーティングという座ることの技術を取得した福祉用具専門相談員に見てもらうことをお勧めします。座り心地のわるい車いすに座るのは苦痛です。
車いすの中には、立ち上がると自動的にブレーキがかかる製品も発売されていますので、福祉用具専門相談員にお尋ねになるとよいでしょう。介助のときは、乗ります、おります、段差があるときは、ちょっとガクンとしますよ、など、適宜、話しかけてください。
参考文献)認知症の転倒予防とリスクマネジメント 日本医事新報社
東畠先生のプロフィール
国際医療福祉大学大学院 准教授
医療福祉経営学博士
厚生労働省「福祉用具における保険給付の在り方に関する検討会」委員
一般社団法人全国福祉用具専門相談員協会 理事
【主な著書】
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