日々の生活で身体・認知機能の維持改善・向上を目指す 〜グループホームバナナ園横浜山手~
来たる認知症700万人時代に向け、認知症に対する理解深耕や予防について、あちこちで情報を目にするようになりました。では、実際になってしまった時にはどんなことができるのでしょうか。認知症の方がそれぞれの潜在能力を発揮し、幸せに暮らすために尽力している施設で、実践している取り組みを紹介します。
株式会社アイ・ディ・エスが運営するバナナ園横浜山手は、認知症高齢者を対象とした少人数型のグループホームです。ワンフロア9人のユニット型で、入居者にきめ細やかなケアを提供しています。自立支援を目的に、特に食事やレクリエーションに工夫をされています。管理者である介護福祉士の江藤節子さんにお話を伺いました。
- この記事の目次
イベント開催で地域交流を図るグループホーム
──はじめに「バナナ園横浜山手」についてお聞かせください。
弊社は川崎市内に9箇所の施設を運営しており、バナナ園横浜山手は横浜市内の1号店として2016年に開設しました。施設の立ち上げは初めてだったのではじめは不安でいっぱいでしたが、嬉しいことに開設前から反響が高く、すぐに入居待ちの状態になりました。
グループホームですので、できないことはスタッフが手伝いながら、ご入居者の自立支援を目指して運営しています。入る方を選んでいませんので、入居当時から車椅子の方もいらっしゃいますし、入ってから重篤化する方もいらっしゃいます。2階建てで各階9人のユニット型で、2階には全介助が必要な方が半分を占めますが、終の住処として入っていただいているので、寝たきりにならないよう職員が数人がかりで介助しています。1階には自立している方が多いので、2階で自立している方々には1階に来ていただいて、交流を図っていますね。
また、地域との交流を深めることも目的とした狂言教室を、開設当初から開催しています。ご入居者とそのご家族だけでなく、近隣の方も参加してプロの指導を受けるイベントは非常に珍しく、好評です。お腹から声を出すのはとても良いことですし、記憶して演技するのはものすごく刺激になっているようです。
元気の秘訣は食事 食事時間も「生活リハビリ」で自立支援
──入所してから全介助になる方もいらっしゃるそうですが、どのようなことがきっかけでしょうか?
高熱や何かの病気ですね。1日でも寝込むとそのまま寝たきりになる場合が多いです。誤嚥もそうですね。認知症だと食べる行為を忘れてしまうので、口に入れるのですが、噛んだり飲み込んだりといった行為は自分で行う必要があります。そうするとペースト状の食事にせざるを得ず、咀嚼も落ちていきますし、様々なことができなくなるという悪循環に陥ります。病気をしない方やしっかり食事を摂られる方は元気です。食べられるうちは元気ということですね。
私たちの施設では、食事を皆で摂ることにこだわっています。職員も皆と一緒に食事します。誤嚥を防いだり、早食いや一点に集中して他が目に入らなくなるのを防ぐ見守りも兼ねているのです。ですが、基本的に「食べさせる」ことはしていません。何でもこちらでしてしまうと、スプーンやお箸の持ち方を忘れてしまうので、促しながら時間をかけて自分で食べてもらっています。時間を費やせるというのも少人数制ユニットの利点ですね。「生活リハビリ」と呼んでいます。
隣に座って食べる仕草をして促したり、噛む力が弱くなっている人には一口大に切って出したりそれぞれの方に合わせてケアをしています。最終的にミキサーにかけることはありますが、噛むことは頭の神経にも良いそうなので、最後まで噛めるよう工夫をしています。トイレもそうですね。自分で排泄できるよう個別に誘導したり、生活の中でできることをなるべくやってもらう生活リハビリを心がけています。
──食事内容にも工夫があるんでしょうか?
食材は栄養士の指導のもとで届くので、栄養やカロリーについては問題ありません。また、主治医の先生が定期的に検査をして栄養状態も確認しています。
私たちの仕事はみなさんの命を預かるものです。なのでその方が1日でも長く笑顔で暮らす生活を保ってもらいたいと思っています。その中で食事の楽しみも提供したく、2ヶ月に1回「口福の会」を行なっています。管理栄養士さんの指導のもと、専門のコース料理を振る舞うものです。住まわれている方やそのご家族も職員も全員で食卓を囲むのですが、なかなか普段全員でレストランに行くのは難しいですよね。だからちょっとした楽しみとして、レストラン気分で食事を楽しんでもらう試みです。
月に1度はお楽しみ食もあります。季節の行事を大事にしているので、お正月やクリスマスなど、季節に合わせた食事を職員が考えています。10月は秋祭りの縁日を行いますし、敬老の日のイベントでは「あんみつが食べたい」というリクエストがあったので、クリームあんみつを振る舞いました。ささやかなことですが、できる範囲でやっています。食に関してはナーバスな部分もありますが、できるだけ工夫をして取り組んで行きたいですね。
MCTオイルの摂取で表情が和らぐ
──中鎖脂肪酸は認知症に良いという報告があります。こちらではMCTオイルを導入されているんですよね?
他で効果が出ているというお話も聞いており、日清オイリオさんのMCTオイルが手軽に摂れるスティック状のソフトゼリーを取り入れました。MCTの摂取量はスプーンに2杯分弱くらいです。ヨーグルト味なので、皆さんには抵抗なくデザート感覚で摂っていただけましたね。
日清オイリオさんとは、MCTオイルの摂取効果の調査*を一緒に半年ほど行いました。調査は入居者の方にご協力いただき、MCTオイルの摂取と合わせて、レクリエーション時に撮影した映像から表情を解析し、笑顔を数値化するというものです。施設側では入居者の方一人ひとりの日常のご様子をBPSDも含めて観察・記録しました。
MCTを摂ると、表情が柔らかくなったと感じます。認知症になると能面化することが多いのですが、表情が柔らかくなり穏やかで、イライラや怒りっぽさがなくなりました。雰囲気も穏やかになり落ち着いてきた印象です。イライラがなくなるだけで、9人のユニットなので周囲との関わり方が改善し、大変助かりました。
とにかく怒りっぽく、目に見えて不穏だった方がいらっしゃいました。落ち着かなくて常にイライラしている状態でした。表情もいつも怒っていたのですが、MCTオイル摂取後に、誰が見ても「穏やかになったよね〜」と印象が変わった事例もあります。
*中鎖脂肪酸摂取による認知症患者の表情の変化について、日清オイリオグループ株式会社がバナナ園横浜山手と協力して行った調査。表情変化が乏しいと言われる認知症患者にMCTオイルを摂取してもらい、その改善効果を画像センシング技術で数値化した試み。2018年の認知症予防学会では発表も行いました。
1回でも多く笑ってもらえる生活空間を目指して
──管理者の立場として目指しているケアや大事にしていることを教えてください。
ケアというのは心の仕事だと思っています。入所の方々にとっては、家族以上に近くで接する立場であり、手を握った時に「熱い」と気づくのも私たちスタッフです。だから、なるべく家庭的な雰囲気の中で、1回でも多く笑ってもらう生活空間をスタッフとともに目指しています。特別な何かをするのは月のイベントで良いので、日々笑顔を増やす生活空間を作ってくださいとスタッフにはお願いしています。入所者にとって私たちも生活空間の一部なので、良いチームケアをしないとその生活空間も暗くなってしまいます。職員も明るく楽しく仕事をすることを心がけています。
家族のケアも私たちの仕事です。お問い合わせには迅速に対応していますし、運営推進会議には行政や近隣の方にも来ていただいているので、ご家族も呼んで交流を深めてもらっています。また、重篤な方の家族で毎日食事の介助にこられるご家族がいるのですが、顔を出して日頃の様子などを報告します。
なかなか来られないご家族もいますが、そういう時にはスタッフが手書きのお手紙を送ります。いくら毎日ケアする私たちがいても、ご家族に勝るものはありません。なので、来ていただけるように「会いたがっています」「今は息子さんの力が必要です」といった手紙を書くと、来ていただけるのですね。職員も毎回工夫しています。やはり手書きだからこそ伝わる部分も大きいと思っています。
今回お話をうかがったのは
▼関連リンク
脳のエネルギー不足を助ける「中鎖脂肪酸」の働き
シリーズ「認知症に寄り添う人々」ダイジェスト
▼外部リンク
バナナ園横浜山手
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