軽度認知障害(MCI)って何?
高齢者の4人に1人は軽度認知障害(MCI)もしくは認知症であるといわれています。認知症の中でも約5割から7割はアルツハイマー型認知症が占めるとされています。かなり高い割合と考えられますが、本人や周りが知識を持たないために見逃されているケースもあります。発見の遅れはその後の経過にも影響します。アルツハイマー型認知症は発症したら治癒は不可能とされていますが、このアルツハイマー型認知症にも軽度認知障害(MCI)と言われる段階があります。これを「アルツハイマー病によるMCI」と言います。この「アルツハイマー病によるMCI」とはどのよう症状を指すのか、アルツハイマー型認知症とどのように違うのかなど、MCIについて知っておきましょう。
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アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)とは
軽度認知障害(MCI)とは
近年高齢化が進むにともない、テレビや雑誌などのメディアでも「認知症」が取り上げられることが多くなってきました。それにより認知症については広く知られるようになってきましたが、「軽度認知障害」についてはよく知らない、という人も多いようです。
軽度認知障害は認知症の一歩手前の状態で、MCI(Mild Cognitive Impairment)とも呼ばれます。認知症における物忘れのような記憶障害が出るものの症状はまだ軽く、正常な状態と認知症の中間と言えます。
そのため、アルツハイマー病によるMCIとは、アルツハイマー型認知症になる一歩の段階と言えます。そしてこれまでの研究の結果、MCIの段階でもアルツハイマー型認知症と同様にアルツハイマー病の原因である脳内アミロイドベータの蓄積が認められることです。そのため、アルツハイマー型認知症とアルツハイマー病によるMCIの共通点は、脳内アミロイドベータが認められることになります。現在の医学界では、放置することでいずれはアルツハイマー型認知症を発症すると考えられているため、アルツハイマー型認知症と併せて知っておきたい障害です。
アルツハイマー型認知症とアルツハイマー病によるMCIの症状の違いについては後に触れますが、いずれも「認知障害」はあるものの、重要な点は、その認知障害によって「日常生活において周囲に影響を及ぼすほどの支障をきたしている程度かそうでないか」になります。
アルツハイマー病によるMCIの臨床的な定義は以下の通りです。
<MCIの臨床的な定義>
・記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
・客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる
・日常生活動作は正常
・認知症ではない
なお、MCIと診断される方の中にはアルツハイマー病をはじめとして、認知機能障害を引き起こす様々な病気が背景に存在しますが、ここでは最も多いと考えられるアルツハイマー病によるMCIについて取り上げています。
MCIの高齢者の数は増加
認知症およびMCIの患者数は年々増加しています。
厚生労働省の発表によると、65歳以上の高齢者において、認知症患者の数は約462万人、MCIをもつ高齢者は約400万人と報告されています(2012年時点)。これらを合わせて約862万人となり、これは、高齢者全体の1/4の数、つまり、4人に1人は認知症もしくは軽度認知障害ということになります。認知症は、まさに国民病とも言えるほど身近な病気となってきているのです。アルツハイマー型認知症は認知症の約5割から7割を占めるといわれていますが、アルツハイマー病によるMCIの患者数ははっきりしたデータは存在していません。しかしながら、認知症の多くをアルツハイマー型認知症が占めることを踏まえると、多くのMCIがアルツハイマー病によるMCIであることは容易に想像がつきます。
アルツハイマー病によるMCIの症状
アルツハイマー病によるMCIの主な症状
上で紹介した定義にもあるように、アルツハイマー病によるMCIは「記憶障害」が主症状となりますが、とくに時間経過に伴った記憶障害です。物忘れは歳を重ねれば誰にでも見られるものですが、アルツハイマー病によるMCIは、年齢に見合わないほどの時間経過に伴った物忘れが特徴です。例えば、生活の中では以下のような言動が見られます。
・少し前に聞いたことを忘れて何度も確認を繰り返す
・世間を騒がせた最近の大きなニュースの内容の記憶があいまい
・数週間前の特別なイベントの内容があいまい(誰の結婚式、どこで開催されたなど)
・少し前のことでも忘れてしまうことがよくある
アルツハイマー病によるMCIとアルツハイマー型認知症の違い
アルツハイマー病によるMCIとアルツハイマー型認知症の違いとして挙げられているのが、日常生活において、独立して生活できるかどうか、という点です。
人は、生活を送るうえでさまざまな動作をします。その動作はADL(Activities of Daily Living)と呼ばれ、「基本的ADL(食事や入浴、トイレ、着替えといった最低限必要となる動作)」と「手段的ADL(買い物や家事、金銭管理など何かをするための少々複雑な動作)に分けられます。アルツハイマー型認知症ではこのふたつの両方が障害され、家事や買い物はおろか自身の身の回りのことも難しくなります。一方、アルツハイマー病によるMCIの場合、基本的ADLは正常とされますが、記憶障害により家事や買い物といった手段的ADLに影響を与えます。ただし、家族や周囲の人の介護や介助は必要なく、日常生活に大きな支障はない程度とされています。やはり年相応と言えないほどの「記憶障害」のため、生活に全く影響がないわけではありません。
もうひとつの違いとしては、発症後の経過が挙げられます。アルツハイマー型認知症は、現在の医学では完全に治すことはできません。症状の進行を遅らせるための治療はありますが、ゆっくりでも進行はしていきます。一方のアルツハイマー病によるMCIは、適切な治療介入ができれば、認知症の発症を遅らせることが可能かもしれません。アルツハイマー病によるMCIの治療・改善方法については、運動や食事、脳トレーニング、薬物療法など、さまざまな研究がなされており、改善は見込まれない可能性は高いですが、なかには改善が見られたというケースもあります。
アルツハイマー病によるMCIとアルツハイマー型認知症の違い
アルツハイマー病によるMCIは早期発見が重要
アルツハイマー病によるMCIを発症すると、数年でアルツハイマー型認知症に移行するといわれています。アルツハイマー病の原因とされるアミロイドベータは、アルツハイマー型認知症を発症する20年くらい前から蓄積し始めていると考えられており、アルツハイマー病によるMCIの段階では、脳内にはアミロイドベータが相当蓄積してしまっていると考えられています。しかしながらアルツハイマー病によるMCIと診断されても、アルツハイマー型認知症を発症するまでの速度はそれぞれです。適切な対策や治療を行うことで発症を遅らせられる可能性があります。
アルツハイマー病によるMCIの対策・治療は、早期であればあるほど効果が高いとされています。そのため、将来の認知症発症を予防するには軽度認知障害の早期発見が何よりも重要です。高齢者本人はもちろん、家族など周囲の人も軽度認知障害について知識を持ち、変化に敏感になることが大切です。
(「相談e-65.net」との共同掲載)
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