今野先生コラム「食事で認知症予防」第10回:抗酸化物質と認知症

2018年6月4日

ブレインケアクリニック院長 今野先生コラム「食事で認知症予防」

今野裕之先生

認知症予防の中でも特に関心が寄せられている「食事」。多くのメディアで様々な食材や栄養素が取り上げられる中、どんなものをどのように摂ったらよいのか、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。

そこで、認知症予防のプログラムを提供するブレインクリニックの院長であり、栄養についても詳しい今野裕之先生が、栄養・食事についてシリーズで解説。皆さんに正しい情報をお伝えします。


この記事の執筆
今野裕之先生
ブレインケアクリニック 院長
今野裕之先生
この記事の目次
  1. 酸化と老化の関係
  2. 抗酸化物質摂取と認知症予防

酸化と老化の関係

認知症は加齢とともに発症する確率が高くなる病気です。すなわち、脳の老化が発症の背景にあるとも言えます。老化は長い間、不可避の自然現象と思われてきましたが、医学の発展の結果、現在はさまざまな要因が老化と関連すること、その要因をコントロールすることによって生物の寿命を延ばしたり短くしたりすることができるということがわかってきました。

中でも影響の大きいものの一つが「酸化」と呼ばれる現象です。酸化とは、文字通り酸素が物質に結合する現象で、身近なところでは鉄が錆びて赤くなるのがそうです。私たちは呼吸によって酸素を取り込み、その酸素を使ってエネルギーを生み出していますが、その際、副産物として「活性酸素」というより強力な酸化力を持つ物質が生まれてしまうのです。私たちの体はそれを消すための仕組みを生まれつき備えていますので、通常は問題はありません。

しかし、何らかの原因によって活性酸素の量が非常に増える、あるいは活性酸素を消す仕組みがうまく働かないような場合は、活性酸素が周囲のタンパク質や脂質を傷つけ、細胞や遺伝子が持つ本来の機能を十分に発揮できなくなって、その積み重ねが老化の促進につながると考えられています。アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβたんぱくの蓄積にも酸化が関連しています。

酸化を抑えてるために必要なことは、まず活性酸素が発生する量を減らすことです。細胞がエネルギーを作る時以外では、ストレス、タバコ、紫外線、薬剤・金属・酸化された食べもの、糖の摂りすぎ、激しい運動などでも活性酸素は増えてしまいます。したがって、このような要因をできるだけ排除して減らすということが酸化対策の第一歩です。しかし家庭や仕事などがストレスの場合は簡単に解決することは難しいですし、大気汚染があるからといってすぐに空気のきれいなところへ引っ越すことも容易ではありません。

そこで次に注目されているのが抗酸化物質を取るという対策です。抗酸化物質には様々なものがあります。ビタミンCやビタミンE、魚の脂で有名なオメガ3脂肪酸、ベータカロテン、抗酸化酵素を構成する亜鉛やマンガン・セレンなどの基本的な栄養素、そしてスルフォラファンやレスベラトロール、アントシアニンなどのポリフェノールなど植物に含まれる天然の化学物質などのほか、最近では水素ガスにも抗酸化作用があるということで研究が進んでいます。

抗酸化物質摂取と認知症予防

野菜はビタミンCやベータカロテン、ポリフェノールなど多くの抗酸化物質を含んでいます。野菜を多く摂取する食事スタイルである地中海食やMIND食(地中海食に高血圧対策を加えたもの)、伝統的な和食が認知症の発症リスクを下げるということが複数の研究から示されていることから、食品からこのような抗酸化物質を取るということは基本的に問題なく推奨できます。

ではサプリメントから摂取した場合はどうかというと、良い結果をもたらすという報告がある一方で、効果がなかったという研究もあります。良い結果をもたらすという報告の例では、高齢者において抗酸化栄養素のサプリメント(ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、およびセレンまたは亜鉛)を摂取している人は、摂取していない人よりも認知機能低下のリスクが低いことを示した(1)といったものがあります。一方、2013年に実施されたシステマティックレビューという複数の論文を解析した研究では、抗酸化物質の摂取と認知機能低下や認知症の発症リスクに一貫した結果が得られませんでした(2)。

サプリメントを使用すると、通常の食事からではとりきれないほどの大量の栄養素を効率的とりいれることができますが、脂溶性のビタミンやミネラルなどは過剰摂取による問題も考慮しなければなりません。また、有効成分そのものは問題なくても、サプリメントの形にするための添加物や保存料などに対するアレルギーや長期使用による安全性の問題なども起きる可能性があります。サプリメントを使用する場合は、定期的に医療機関検査を受けて医師にデータを確認してもらいながら、自己判断で飲みすぎないようにするなどの工夫が必要です。

参考文献
1. Gray SL, Hanlon JT, Landerman LR, Artz M, Schmader KE, Fillenbaum GG. Is antioxidant use protective of cognitive function in the community-dwelling elderly? Am J Geriatr Pharmacother. 2003 Sep;1(1):3–10.
2. Crichton GE, Bryan J, Murphy KJ. Dietary antioxidants, cognitive function and dementia–a systematic review. Plant Foods Hum Nutr. Springer US; 2013 Sep;68(3):279–92.


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