レビー小体型認知症最前線~髙橋正彦先生インタビューPart2
クリニック医庵たまプラーザ 院長 髙橋正彦先生インタビュー
精神科と神経内科を主に、多くの認知症の患者さんを診ている「クリニック医庵たまプラーザ」で院長を務める髙橋正彦先生にお話を聞きました。老年精神科一筋で臨床医として活躍してきた髙橋先生は、患者さんと家族に寄り添った認知症ケアを展開しています。
後半のインタビューでは、レビー小体型認知症の介護のポイントや、納得できる主治医選びのためにすべきことについて、お話をお聞きしました。
- 話し手
非薬物療法が患者さんにもたらす変化に注目
──薬物療法以外には、どのような治療(非薬物療法)を行うのでしょうか。
非薬物療法は、薬物療法とともに治療の両輪の1つです。患者さんの中に残された能力をいかに引き出せるかということがポイントになり、その環境作りが、治療にとても大きな効果をもたらします。
まずは、家族以外の人と交流する機会を設ける、社会とのかかわりを保つ、家庭内外での役割を作るなどを目標に、その人に合った環境を整えます。私が特にお勧めするのは、デイサービスの活用です。これはアルツハイマー型認知症でもよく見られることですが、認知症発症と同時に、定期的に行っていた趣味活動にも参加しなくなって、引きこもり状態になった患者さんが、デイサービスに行き始めて、それが楽しみとなり、生活の場でも前向きになった患者さんをたくさん見てきました。そういう人は同時に心や身体の機能も向上し、結果的に、明るくなった、意欲が出てきたなどの変化が生まれることが多くなります。これは壊れた脳の神経細胞が修復されているのではなく、脳の使われていなかった部分が活性化し、残されていた能力が発揮できるようになったと考えられます。
ただし、デイサービスもいろいろあるので、本人に合う施設かどうかを確認しながら選ぶ必要はあると思います。また。そこで何をやるかということも考えなければなりません。家族やケアマネジャーなどと話し合い、デイサービスをうまく取り入れられるよう準備することが大切です。
──レビー小体型認知症独特の「ぼーっとする」という症状には、具体的どのように対応するのでしょうか。
レビー小体型認知症では、頭が冴えている状態と、ぼーっとしている状態が繰り返し現れます。夜間に頭が冴えると、眠れなくなり幻視が生じたり、逆に日中の食事中にぼーっとすると、飲み込みが悪くなり、誤嚥や窒息を招きかねません。
この症状に対しては、睡眠覚醒リズムの調整が効果的です。朝決まった時間に起きて、日中しっかり活動すると、頭がはっきりします。そして、日中の活動が精神的・肉体的な疲労をもたらし、夜は自然に眠れるようになります。このようにして人工的にリズムを整えるようにします。日中の活動は、カラオケやおしゃべりなど本人の好きなことなら何でも構いません。とにかく、本人が楽しめて、前向きになれればよいのです。
レビー小体型認知症の場合、なるべく早い時期から睡眠覚醒リズムや生活環境を整え、維持できるよう工夫をすることで、かなりよい状態を維持できる可能性があります。専門家の間では、アルツハイマー型認知症よりもレビー小体型認知症のほうが予後もよく、進行が緩やかな傾向があるのではないかという意見もあります。
──幻視についてはどうですか。
幻視やその他の視覚の異常の訴えに対し、介護される方がどのように対応するかは大変重要なことです。対応の仕方の基本は、肯定も否定もしないということです。ご家族は本人の訴えに対し冷静に対応することが必要で、強く否定したりすることはかえって逆効果になるので注意してください。
本人と一緒に幻覚が見える場所まで実際に近づいて、ないことを確認するというのも1つの方法です。症状が強く現れているときには、関心をほかに向ける声掛けや現実に引き戻す工夫も有効なことがあります。例えば、自分の死んだ母親がいるという幻視を訴えたときには、話を変えて、「お母さんはどんな人だった?」などと、母親にかかわる思い出に話をもっていきます。そうやって、幻視に伴う嫌な気持ちを前向きになれるよう切り換えるのもケアの工夫の1つです。
また、家族といろいろ話し合いながら解決策を考えていくことは、家族にとってのカウンセリングにもつながると考えられます。幻視に対する対応法は難しいこともありますが、具体的な方法は主治医のアドバイスをよく参考にしてください。
──このような症状が強く現れ続ける場合には、どのように対応すればよいのでしょうか。
レビー小体型認知症の行動心理症状については、今まで述べたような非薬物療法と薬物療法を併用しながら、できるだけ軽いうちから対応することが重要です。多くの場合、これらの対応により症状が激しくなることは少ないですが、何らかの理由で症状が強く現れ在宅でみるのが難しくなった場合には、睡眠覚醒リズムをしっかりと整えることを目的に、入院してもらうこともあります。そして、さまざまな工夫や薬などで、生活のリズムを強制的に整えていきます。そうすると1〜2カ月ぐらいで頭がはっきりしてきて、日中に活動的になり、夜はぐっすり眠れるようになります。
リズムが整うまでには結構時間はかかりますが、1度リズムが整うと、その状態で維持できる可能性はかなりあるといえるでしょう。そうしたら退院して、また自宅で過ごすことができるようになります。
転倒予防や環境調整はよい状態の維持にもつながる
──家族など、レビー小体型認知症の患者さんを介護する側が気をつけることはありますか。
中期以降になってくると、転倒には気をつけなければなりません。
その要因として、まず自律神経症状があります。起立性低血圧、食後低血圧、臥位高血圧など血圧の変動が多くみられ、時には意識消失を起こすこともあります。また食後低血圧については、発作を起こす場合、食事が終わった後30分程度横になっていただくと予防できることもあります。これらのことから、日常生活の様々な場面で血圧を測っておくと、これらの発作を予測することもできます。ただし、意識消失発作については、原因は低血圧発作に限らず、脳卒中や心臓疾患などの命にかかわるものの可能性もあるので、いつもと違うと思った場合、かかりつけ医や救急外来に相談したほうがいいこともあります。以前に発症したことがある場合、患者さんには食後30分〜1時間程度横になってもらい、血圧の値をみていくようにします。ただし、意識消失を起こしてしまったときには、脳卒中や心臓疾患など命にかかわる疾患の可能性もあるので、いつもと違うと思った場合、かかりつけ医や、救急外来に相談したほうがいいこともあります。
また、筋肉がこわばったり、身体のバランスがとりにくくなるパーキンソン症状でも、転倒には注意が必要です。椅子からの立ち上がりや、階段の上り下りのときには必要に応じ介助を行います。
いずれにしても、レビー小体型認知症においては、転倒による骨折など身体的な障害が防げれば、よい状態を長期間維持できる可能性があるので、その予防は重要なポイントとなります。
──環境の面で考えておいたほうがよいことはないでしょうか。
現場でよく経験することなのですが、床に線が入っていたり、色分けされていると、レビー小体型認知症の人は、平らであっても転倒することがあります。床は一色にしておいたほうがよいでしょう。それと、夜間には、部屋全体に光が届くようにすることも、幻視を招かないための1つの方法です。
また、食事のときも、食器に模様があると、料理と区別がつかなくなるので、無地のものを選ぶようにします。濃い色、淡い色を使い分け、料理と色のコントラストがつくようにすると、視覚的に料理が識別しやすくなります。
レビー小体型認知症の場合、このような対応についてマニュアル化されたものがまだありません。本人の様子をみながら、経験に照らし合わせて、リスクを減らしていくようにします。ケアの工夫については、経験の豊富なケアマネージャーや、専門医などに相談してみてください。
納得できる主治医の選びの目安とは?
──どのようにすれば、納得にいく主治医をみつけることができるでしょうか。
まずは話をよく聞いてくれるということがポイントになると思います。基本的に認知症の診療には時間がかかります。私の場合、1人の患者さんに対して、初診なら1時間〜1時間半ぐらいかけています。再診は、状態が落ち着いていれば10分程度になりますが、何らかの変化があれば、30分〜1時間費やすこともあります。現在困っている症状や状況を、しっかり相談でき、時間をかけて一緒に考えてくれるかどうかということが主治医選びの判断の目安になるのではないでしょうか。
──認知症診療ができる医師の少ないような地域の場合、どうしたらよいしょう。
まずは、住んでいる町を管轄する地域包括支援センターに相談してみてください。地域の介護の窓口として地域の情報が集まる場所で、介護相談や家族介護交流会なども行っています。早めに介護保険を申請すると、担当のケアマネジャーが決まるので、そのケアマネジャーに相談してもよいでしょう。
また、全国規模でレビー小体型認知症の家族会が少しずつできてきているので、そういうところで相談してみてもよいと思います。それぞれの地域で定期的な集いが開かれていることも多いので、そういう場で医師を紹介してもらってもよいかもしれません。
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