パイオニア転写因子「FOXF1/2」の発見
2026年5月11日
加齢に伴う慢性炎症をコントロールする
熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野の衛藤貫特任助教(現 九州大学医学研究院・助教)、中尾光善特任教授らは、網羅的な遺伝子・ゲノム解析を用いて、老化細胞※1による慢性炎症※2を促進する主要な転写因子「FOXF1/2」※3を初めて発見しました。 転写因子はゲノム上の標的遺伝子の働きを選択的に促進したり、抑制したりすることができます。転写因子が働く場をクロマチン※4と呼んで、働かない遺伝子ではこの構造が閉鎖しており(OFFの状態)、他方、働く遺伝子ではオープンな構造にあります(ONの状態)。OFFからONへの変換を最初に担う転写因子を「パイオニア転写因子」と呼びます。 今回、老化細胞において、FOXF1/2が炎症性タンパク質の遺伝子のエンハンサー領域※5に集結して働くことが分かりました。FOXF1/2は炎症性タンパク質の遺伝子のエンハンサーでヒストンのアセチル化※6を促進し、閉じたOFFの状態からオープンなONの状態になることで、これらの遺伝子が活性化します。 また、AP-1(c-JUN)※7と共同して、パイオニア転写因子として働くことを明らかにしました。老化細胞でFOXF1/2またはc-JUNを阻害したところ、炎症性タンパク質の遺伝子が強く抑制されて、炎症反応が低下することを見出しました。 この成果では、老化細胞でFOXF1/2が炎症性タンパク質の合成・分泌を促進するメカニズムを明らかにしたことから、細胞老化による慢性炎症の制御法(セノスタティクス※ 8)の開発につながることが期待されます。 本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金、文部科学省共同利用・共同研究システム形成事業「学際領域展開ハブ形成プログラム」、熊本大学発生医学研究所の高深度オミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業、熊本大学わかば研究推進事業、金原一郎記念医学医療振興財団助成金などの支援を受けて、科学雑誌「モリキュラー・セル(Molecular Cell)」オンライン版に米国(ET)時間の令和8 年4 月16 日11:00【日本時間の4 月17 日(金)0:00】に掲載されます。研究成果のポイント
● 身体を構成する細胞は、その増殖を持続的に停止し、細胞老化に至ります。炎症性タンパク質を合成・分泌(SASP とよぶ)によって、全身の慢性炎症と老化を促進しますが、そのメカニズムは明らかではありません。 ● 転写因子FOXF1/2 は、老化細胞で炎症性タンパク質の遺伝子のエンハンサーに結合して、ヒストンのアセチル化と遺伝子の働きを促進する先駆的な役割を果たすことが分かりました(パイオニア転写因子とよぶ)。 ● 老化細胞において、FOXF1/2 はもうひとつの転写因子AP-1(c-JUN)と共同して働くこと、また、これらを阻害すると炎症性タンパク質の遺伝子の働きが著しく低下して、炎症反応が抑制されました。 ● FOXF1/2 とAP-1(c-JUN)によって、老化細胞が慢性炎症を促進するプログラムが明らかになり、これらの阻害は、老化細胞を維持したままで、加齢による慢性炎症の制御法(セノスタティクス)になると期待されます。 (用語解説) ※1:老化細胞:増殖を持続的に停止した状態の細胞を老化細胞という。加齢と共に体内に生存・蓄積して予想以上に活発な活動を行う。 ※2:慢性炎症:比較的に弱い程度で長期に渡って炎症反応がある状態を慢性炎症という。加齢・老化に伴うことが多く、組織や器官の機能低下につながる。 ※3:転写因子「FOXF1/2」:細胞内で標的の遺伝子の働きを調節するタンパク質を転写因子と呼ぶ。その中で、FOXF1/2 の機能はよく分かっていなかった。パイオニア転写因子が標的遺伝子を開いた後に、他の転写因子が作用できる。 ※4:クロマチン:ゲノムDNA とヒストンなどのタンパク質の複合体。閉じたクロマチンの構造にある遺伝子は働かず、他方、オープンなクロマチンの構造にある遺伝子は働きやすくなる。 ※5:エンハンサー領域:ゲノム上の遺伝子の働きを促進する特徴的なDNA 配列。特定の転写因子(DNA 結合タンパク質)が結合して調節される。 ※6:ヒストンのアセチル化:アセチルCoA を用いてアセチル基転移酵素がヒストンタンパク質を修飾する。その結果、オープンなクロマチンの構造をおこす。 ※7:AP-1(c-JUN):AP-1 は代表的な転写因子のタンパク質複合体であり、これを構成する主なタンパク質がc-JUN で、遺伝子の働きを調節する。 ※8:セノスタティクス:老化細胞を保持して炎症反応を選択的に制御する方法。近年、薬剤によるセノリティクス(老化細胞除去)が注目されるが、老化細胞を除去すると組織の線維化が生じるという報告がある。セノ(老化)+リティクス(分解)、スタティクス(静力学)の造語。論文概要
論文名 FOXF1/2 establish senescence-specific enhancer landscape to activate proinflammatory senescence-associated secretory phenotype ( FOXF1/2 が老化細胞に特徴的な炎症性エンハンサーを確立して、細胞老化関連性 分泌表現型を活性化する) 著者名(*責任著者) Kan Etoh*, Yuko Hino, Hideaki Morishita, and Mitsuyoshi Nakao* 掲載雑誌 Molecular Cell DOI:10.1016/j.molcel.2026.03.020 詳しくは、下記外部リンクよりご覧ください。 ※写真はプレスリリースより ▼外部リンク 老化細胞が慢性炎症を引き起こす機序を担うパイオニア転写因子「FOXF1/2」の発見 -加齢に伴う慢性炎症をコントロールする-おすすめ記事リンク
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