血中アルブミン酸化還元バランスと高齢者の低たんぱく質栄養状態
森永乳業、都健康長寿医療センターが共同研究
森永乳業グループは、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターとの共同研究において、高齢者のたんぱく質摂取量と血中アルブミン酸化還元バランス(※1,2)との間に関連があり、血中アルブミン酸化還元バランスが高齢者の低たんぱく質栄養状態を反映する指標となり、新しい健康のものさしとなる可能性が示されました。これらの研究成果は学術雑誌『Clinical Nutrition ESPEN』に2024年6月22日に掲載されました。
高齢者は食欲の低下や食嗜好性の変化からたんぱく質・エネルギー欠乏状態に陥りやすく、これに伴いサルコペニアやフレイルといった疾病のリスクが高まります。栄養指標として広く用いられている血中アルブミンには「酸化型」と「還元型」があります。食事からのたんぱく質の摂取量が充足すると、血中アルブミンの還元型が増加し、酸化型が減少します。逆に不足すると、血中アルブミンの酸化型が増加し、還元型が減少します。
近年、この血中アルブミン酸化還元バランスが、たんぱく質の栄養状態をより早期、かつ正確に示す栄養指標となりうることが基礎・臨床研究から明らかになってきていますが、高齢者の低たんぱく質栄養状態を反映する栄養指標となるかどうかについては、検証が行われておりませんでした。
この度、東京都健康長寿医療センターと共同研究を行い、同センターが実施するコホート調査「板橋健康長寿縦断研究」の健診に参加した地域在住高齢者1,011名を対象に、たんぱく質摂取量と血中アルブミン酸化還元バランスとの関連について検証を行いました。
日本人の食事摂取基準 (2020年版) をもとに、65歳以上で推奨される一日当たりのたんぱく質摂取量を満たしているかどうかをたんぱく質不足の基準とし、ロジスティック回帰分析を用いて、血中アルブミン酸化還元バランスおよび血中アルブミン濃度との関連性について調べました。
その結果、血中アルブミン酸化還元バランスは、たんぱく質摂取量が低値であること (日本人の食事摂取基準の推奨量未満であること)と統計学的に有意な関係が認められました (図)。一方、臨床現場で広く用いられている血中アルブミン濃度には有意な関係は認められませんでした。
今後の展望
血中アルブミン酸化還元バランスは、高齢者のたんぱく質栄養状態を反映し、低たんぱく質栄養状態に伴うサルコペニアやフレイルといった疾病リスクの低減に寄与しうる健康のものさしとなる可能性が示されました。今回の研究内容を応用して、血中アルブミン酸化還元バランスを指標とした高齢者の低栄養状態の早期発見と栄養改善指導への活用に向けた検討を進めていきます。
学術雑誌『Clinical Nutrition ESPEN』概要
学術雑誌”Clinical Nutrition ESPEN”は、ヨーロッパ臨床栄養・代謝学会 (European Society for Clinical Nutrition and Metabolism (ESPEN)) が発行するオンラインジャーナルです。臨床栄養と代謝に関する最新の科学的知識を普及することを目的に、基礎研究から臨床試験、最新の栄養ガイドラインなど様々な報告を掲載しています。
発表内容
1)論文演題名
Serum albumin redox state as an indicator of dietary protein intake among community-dwelling older adults.(DOI: https://doi.org/10.1016/j.clnesp.2024.06.028)
2)著者名
Keiko Motokawa, Maki Shirobe, Masanori Iwasaki, Yasuaki Wada, Fuka Tabata, Kazuhiro Shigemoto, Yurie Mikami, Misato Hayakawa, Yosuke Osuka, Narumi Kojima, Hiroyuki Sasai, Hiroki Inagaki, Fumiko Miyamae, Tsuyoshi Okamura, Hirohiko Hirano, and Shuichi Awata
※1 アルブミン
アルブミンは血液中に最も豊富に含まれるたんぱく質で、またその濃度はたんぱく質の栄養状態を反映する栄養指標として臨床現場で広く用いられています。一方、血中アルブミン濃度は栄養状態の変化に対する鋭敏性に乏しいなどの課題も多いとされています。
※2 血中アルブミン酸化還元バランス
血液中のアルブミンには「酸化型」と「還元型」があり、「アルブミン酸化還元バランス」は両者の比率を指します。一部の疾病や、加齢、たんぱく質栄養状態の悪化によって、「酸化型」が増える方向にバランスがシフトすることが知られています。
血中アルブミンの34番目のアミノ酸残基であるシステイン残基 (Cys34) が遊離チオール基 (SH) を有しており、通常は還元型として存在します。このチオール基は他の物質と反応しやすく、その一部は酸化ストレスや他の低分子チオール化合物 (グルタチオンやシステイン) による影響を受けて酸化されます。血中アルブミンはこのCys34の修飾構造の違いにより、還元型アルブミン、酸化型アルブミン (I, II) と呼ばれます。
(文頭画像はイメージ、文中画像はプレスリリースより)
▼外部リンク
血中アルブミン酸化還元バランスが高齢者の低たんぱく質栄養状態の指標となる可能性
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