認知症による幻覚や錯覚(原因と対応)
幻覚とは、認知症のBPSD(行動・心理症状)の一つです。実在しない知覚の情報を体験してしまうことを言います。思い違いによる「錯覚」がみられることもあります。
このページでは、特に認知症による幻覚について、原因や対応などを解説します。
- この記事の目次
幻覚と錯覚は違う?
認知症の症状としての「幻覚」
幻覚とは、実在しない知覚の情報を、実在するかのように体験する症状です。実際にないものが「見える」幻視のほか、幻聴・幻味・幻臭・体感幻覚などがあり、レビー小体型認知症で多くみられるのが幻視だと言われています。また、アルツハイマー型では幻聴が現れることがあります。
病気がなくとも起こりうる「錯覚」
錯覚とは、実際にあるものを、事実と違った知覚として認識してしまうことです。対象となる物体の色や形などが違って見える錯視のほか、錯聴、錯触などがあります。老化や認知機能の低下によって、この錯覚も起こりやすくなってきます。
健康な人でもぼんやりしている時や、寝ぼけている時などに起こることがあります。虫だと思っていたらゴミだった、電話が鳴ったと思ったらテレビの音だった、などといった経験を、皆さんもしたことがあるでしょう。「見間違え・聞き間違え」「気のせい」などが錯覚にあたります。
見えるもの、聞こえるものが「勘違い」のレベルを超えた状態の場合、幻覚が考えられますので、医師の診察を受けましょう。
幻覚が起こる原因
レビー小体型認知症の特徴的症状
認知症の中でも特に幻覚が起きやすいのは、レビー小体型認知症です。レビー小体型認知症では、認知機能の低下よりも、視覚や空間認識の機能低下が大きいことに起因しています。特に初期~中期にかけてよく現れる症状とされています。
レビー小体型認知症の幻覚は、まるでそこにあるかのように、実態感を持った幻視であることが多いと言います。これは、脳の空間位置や動きの認知、顔や物体の認知に関する部分が障害されていることに関連すると考えられています。
機能の低下や環境による不安感
高齢になると、耳が遠くなる、認知機能が落ちるなど、身体機能が低下してきます。本人にとっては不安やストレスを感じやすい状況にあると言えます。
認知症により脳の機能が低下している上、目や耳が悪くなり、錯覚などを起こしやすい状態の中、不安や恐怖を感じる環境があると、幻覚を起こすことがあると言われています。
認知症以外の原因
幻覚は統合失調症の代表的な症状です。また、うつ病や他の精神疾患でも見られることがあります。その他、薬の副作用やアルコールで幻覚が起こることもあります。
認知症の行動・心理症状以外の原因が考えられる場合は、医師に相談しましょう。
具体的な幻覚の例
幻視
認知症で一番多い幻視は「家の中に知らない人がいる」というものだと言われています。その他、亡くなったことはわかっていても、その人がはっきり見えたり、ありえない物や動物を見る人もいます。いずれも本人にとっては現実感を伴う体験で、本当に「見えて」いるのです。
前述の通り、レビー小体型認知症でよく見られます。
幻聴
その場にはいないのに「息子の声がした」と言ったり、そんな事実はないのに「自分の悪口が聞こえた」という訴えがあれば、幻聴の可能性があります。こちらも本人にとってははっきりと聞こえているのです。
幻聴は、アルツハイマー型認知症でよく見られる症状として挙げられています。
体感幻覚
怪我などがないのに身体に痛みを訴えたり、「虫が背中を這い上がってくる」など、身体的に感じる幻覚を体感幻覚と言います。身体に異物があると感じる場合は、叩いたり振り払ったりする行動が見られることもあります。
幻味・幻臭
口の中に何も入っていないのに「変な味がする」などを訴える幻味や、匂いのないところで「何かが臭う」などと感じるのも幻覚の一種です。
幻覚が起こった時の対応は?
否定をしない
本人にとっては現実に体験していることなので、「そんなものはいない」などと拒絶したり怒ったりしないようにしましょう。拒絶された、わかってもらえなかったなどの悪感情が残り、ストレスとなって他の症状につながることも考えられます。
一緒に確認して安心してもらう
否定するのはよくありませんが、肯定してしまうと、妄想につながることもありますので注意が必要です。
例えば「知らない人がいる」と言われた時には、「誰か来たかもしれないけど、もうい ませんよ」など、一緒に確認して安心してもらいましょう。虫などがいるという訴えには、払う仕草をして「いなくなりましたね」などの声をかけましょう。
「まだここにいる」という場合は、具体的な場所を一緒に確認すると本人が「もういない」となることもあります。
幻覚に対する対策
本人の話を聞く
不安感の現れである場合もあるので、現状に不安がないか、本人の話を良く聞きましょう。
また、体調が悪い場合もありますので、水分は足りているか、熱はないか、便秘はしていないかなどもチェックしてみましょう。
見間違いが起こり得る環境を改善する
高齢になり目が悪くなると、ちょっとしたことで見間違いを起こすことがあるでしょう。幻覚のきっかけとなり得ますので、環境を整えることも効果的です。
例えば、間接照明を使った部屋では、影が多くなります。影は見間違いの原因にもなりますので、部屋を明るくする、導線に影ができるようなものを置かない、足元にランプをつけるなど工夫をします。
その他、壁のシミや傷を虫などと間違える場合もありますので、隠すような工夫もしてみましょう。
医師に相談する
薬で改善する場合がありますので、幻覚が頻回だったり、興奮が見られる時には医師に相談してください。
先述のとおりレビー小体型認知症は初期から幻覚が出ると言われていますので、認知症の診断がされていない方でも、行動に疑問があれば、早めの受診をお勧めします。
参考文献:1)今井幸充.認知症を進ませない生活と介護.法研,平成27年,p174.
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