認知症で食べないときの原因と対応
認知症の患者さんが食事を拒否したり、飲み込めず食べられないなど、食事を摂らないことで介護者が困ることがあります。認知症の症状だけでなく、様々な原因が考えられますが、認知症が進むと理由があっても伝えられないこともあるでしょう。
このページでは、本人が「食べない」場合の原因や対処方法について考察していきます。
- この記事の目次
食べない原因とは?
高齢者が食べない原因は、認知症の症状のよるもの以外にも身体的要因など様々です。ここでは一般的に考えられる原因を解説します。
認知症の影響
食事が理解できない
「失認」により食べ物を認識できず、手でいじったりする場合があります。また、お箸などの使い方がわからなくなる「失行」のため、食べ物に口をつけられないこともよく見られる症状です。一緒に食事をして、声をかけながら食べ物であることを理解してもらったり、動作を真似てもらいましょう。
アパシー・抑うつなどにより食欲がわかない
認知症の心理・行動症状のひとつに、何事にも無気力・無関心で一日中ソファでじっと座っているような「アパシー」の状態があります。
このような状態になると、食べる意欲も失われ、食事にも興味を示さなくなります。また、認知症も末期になると寝たきりとなり、ますます食事を摂らなくなる傾向が見られます。気分が落ち込む「抑うつ状態」によっても、食欲が減退します。
その他、身体的には健康に見えても、認知症の影響で脳の視床下部の反応が鈍り、食欲を感じづらくなるというケースも見られます。
意思を伝えられない
認知症になると、言葉で意思をうまく伝えられないことも多くなります。体調が悪くて食欲がなかったり、口の中が痛くて食べられなかったりしても、それを訴えることができません。
環境が落ち着かない
食事をする環境が毎食違ったり、テレビの音で気が散るなど、認知症の方はちょっとしたことでも落ち着かず、食事に集中できなくなることがあります。
また、テーブルの高さが合わなかったり、食器に手が伸ばしづらい、車椅子にもたれたままの姿勢であるなど、食べづらい環境も一因となります。
加齢による身体機能の低下
ADL(日常生活動作)の低下
ADLとは自力で日常生活を送る能力のこと。高齢になると、身体機能・認知機能が徐々に衰えていき、ADLが低下します。
筋力の衰えなどから椅子に座っていることも難しくなり、一人で食事がとれなくなるほか、消化器官も老化していきます。胃や小腸では吸収する機能が衰えたり、大腸の働きも悪くなり、便秘がちにもなります。
このようなことから、食事をする行為自体ができなくなったり、食欲がなくなったりします。
飲み込めない
高齢になると、嚥下障害と呼ばれる食べ物を飲み込みにくくなる状態が起こります。食べたり飲んだりしたものが、食道ではなく咽頭と気管に入ってしまうことを「誤嚥」と言い、病気の原因にもなるので注意が必要です。
物理的に飲み込めないことが原因で食事に手をつけられない場合のほか、食べ物を口にするとむせたり咳き込んだりすることでマイナスイメージを抱き、食べなくなることもあります。
噛めない
加齢が進むと、口の中では唾液の分泌が減って物を噛むことが難しくなったり、噛む力が衰えたりします。また、義歯が合わなくなり、噛み合わせが悪くなったり、虫歯による痛みで食べられないこともあります。
薬物の影響
服薬している薬によって味覚が変わっていたり、食事の時間に眠くなってしまうなどが考えられます。薬の影響が見られる場合には、医師に相談しましょう。
食べないときには
話を聞き、体調を確認する
体調が悪かったり、口の中に問題があって食べられない場合もあるので、体調をチェックしましょう。
便秘の場合は、スッキリすると食べることもあります。
無理に食べさせない
食べないからといって、無理やり食べさせるのは禁物です。誤嚥から肺炎を起こす恐れもあります。きちんと食事を摂ることは大切ですが、「1食くらい抜いても構わない」という姿勢も大事です。
怒らない
本人は食事ということを理解していないかもしれません。また、動作が遅く食事に時間がかかることもあります。そんな時、責めたり怒ったりしても解決にならないばかりか、怒られたことで食事の時間にマイナスイメージを持ち、ますます嫌がることにもつながります。おおらかに接する努力をしてみましょう。
環境を整えてみる
テーブルの高さや食器が、食べやすい位置にあるかを確認しましょう。また、車椅子に座っている場合、背にクッションを入れるなど、食事を取りやすい姿勢が取れるよう工夫してみるのも効果的です。
定期的に食べてもらうための対策
普段から体調を管理する
美味しく食事が摂れるよう、普段から体調をチェックしましょう。体調不良に対する管理だけでなく、口の中のチェックも忘れずに。前述のように、義歯や虫歯なども食べない原因になります。
また、便秘にならないよう排便についても確認しましょう。
本人の食事習慣を尊重する
もともとの食事習慣が現在と違っている場合、食事を摂らなくなる場合もあるので、本人の習慣を尊重しましょう。
食事時間
例えば本人がこれまで「昼食は13時」としていた場合、それに合わせることでスムーズに食事を摂ることもあります。施設など時間が決まっている場所では難しいかもしれませんが、自宅でヘルパーさんに来てもらっているなどの場合、合わせることはできるでしょう。
また、「1日2食だった」という場合にも、無理に3食にしようとせず、本人の習慣に合わせてみてください。
食事内容
例えば「昼食はおにぎり」など決まった習慣を持っていた方であれば、それに合わせる努力をしてみましょう。施設やヘルパーさんに食事をお願いしている場合も、栄養士さんなどに食事形態を変える相談をしてみてください。
食材や食器を工夫する
飲み込みづらい方には、食材を飲み込みやすい形態にしてみるなどの工夫をしてみましょう。飲み込みの悪い方向けに「とろみ食」がありますが、中にはこれが嫌いという人もいるので、きちんと本人の好みを聞くことも大切です。
認知機能が落ちている人にとって、食事が乗ったお皿が柄物だった場合、食べ物と柄の区別がつきにくいことがあります。認識のしやすい無地の食器を使うのも一つの方法です。
また、お箸などが使いづらい場合はフォークやスプーンを渡す、手でもつまめる形態にしてみるなど、本人の様子を見ながら気を配りましょう。 なるべく一人で食事ができるよう、食材の形態や食器を工夫することで、スムーズに食べてもらえることもあります。
身体を動かす
身体を動かさないとお腹も空かないものです。食欲増進のため、できるだけ動く機会を作ってみてください。歩ける方は散歩を習慣にするのも良いでしょう。
たとえ座ったままでも、音楽をかけながらの軽い体操などは食欲が湧く以外にも、気分転換や認知機能への刺激などの効果があります。ぜひ一緒に試してみてください。
雰囲気を演出する
食事についての概念がわからなくなっている方には、まずは一緒に食事を摂り「美味しいもの」「楽しいもの」であることをわかってもらいましょう。手をつけない場合には、匂いをかいでもらったり、少し口元に持っていくと、そのまま食べるようになることもあります。
ただし、過剰な声かけは本人にとってストレスとなる場合があるので、見守る気持ちで接しましょう。また、上記のようにテレビの音などで気が散って食事ができないこともあるので、環境と本人の様子に配慮することが大切です。
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