警察庁が提言、認知症などが関係する交通事故防止の方策
専門家からヒアリング、運転リスクと今後の対策や課題を検討
警察庁は6月30日、「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言」を発表しました。これは、今年1月から5回開催された、「高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議」の議論結果をまとめたものです。有識者会議では、認知症など高齢者の特性が関係する交通事故を防止するために必要な方策について専門家に意見を求めており、運転リスクと今後の対策、課題などが検討されています。
認知機能の低下が死亡事故の発生に影響
現在、運転免許保有者全体の死亡事故件数は減少傾向である一方、75歳以上の運転者による死亡事故の割合は年々増加傾向にあります。
75歳以上の運転者による死亡事故の特徴は、一般道で(98%)、昼間に(81%)発生し、75歳未満の運転者による死亡事故と比べて、運転中に誤って車線を逸脱し物件等に衝突する工作物衝突や、出会い頭衝突、正面衝突といった車両単独での事故が多いという点です。原因で最も多いのは、ブレーキとアクセルの踏み間違いなどの操作不適であると報告されています。
平成28年中に、こうした死亡事故を起こした75歳以上の運転者のうち、死亡事故発生前に認知機能検査を受けていたのは425人。そのうち、認知症のおそれがあると判定された人は8.0%、認知機能が低下しているおそれがあると判定された人は42.4%です。一方で、平成28年中の認知機能検査の総受験者の結果を見ると、認知症のおそれがあると判定された人は3.1%。認知機能が低下しているおそれがあると判定された人は29.3%ですから、認知機能の低下が死亡事故の発生に影響していると考えられます。
また、もし改正道路交通法が施行された後であれば、死亡事故の発生前に医師の診断や臨時認知機能検査の対象となった人は平成27年では458人中70人、平成28年では459人中63人。これらの人々について、死亡事故を未然に防げた可能性があります。
改正道路交通法で免許取消処分がおよそ10倍にのぼる可能性
平成29年3月に施行された改正道路交通法では、運転免許証の更新時以外にも、一定の違反行為をした75歳以上の運転者に対しては、臨時認知機能検査が行われることが定められました。もし、検査結果が直近の認知機能検査の結果と比較して悪化している場合、臨時高齢者講習が実施されます。この改正によって認知症と診断され、運転免許の取消し等の処分を受ける運転者は、年間でこれまでのおよそ10倍の1万5000人にのぼると予想されています。
しかし認知症の症状は、正常な認知機能から軽度認知障害を経て徐々に進行するもの。健康な状態との境界が明確ではありません。しかも原因となる疾患はさまざまで、1度の検査で判断することは困難。さらに、高齢者に運転を断念させることによって、認知症の進行を早めてしまうおそれがあるとも指摘されています。
以上のことから、「認知症との診断によって一律に運転免許を取り消すのではなく、軽度認知障害や初期の認知症の高齢者については、実車試験によって運転技能をチェックすべき」といった意見が出ていますが、これに対して「実車試験でも疑問な点があり、仮に試験で問題がなかったとしても、まだらに認知症の症状が出る可能性があるのであれば、運転を断念させるべき」という意見も。また、住んでいる地域によっては、生活に自動車の運転が不可欠であることから「地域の実情を踏まえ、認知症と診断されて運転を断念した者への移動手段の確保を含めた適切な生活支援策を講ずる必要がある」といった意見も出ており、きめ細かな対策が課題であることが明らかになりました。
ほかにも、本提言では視野障害やその他の加齢に伴う身体機能の低下などについても検討されており、今後、運転免許制度の在り方の再検討や、高齢者の交通事故が未然に防がれる仕組みづくりに生かされることが期待されています。
提言の詳細は外部リンクよりご参照ください。
▼外部リンク
高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議(警察庁)高齢運転者交通事故防止対策に関する提言(PDF)
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