認知症保険~認知症介護の経済的負担に備える
高齢化とともに認知症患者が増加する中、2016年から認知症保険の発売が始まり、現在各社で様々な特色を持った商品が提案されています。このページでは、認知症になる前に備えることができる「認知症保険」について紹介します。
- この記事の目次
認知症に経済的な備えが必要な理由とは
認知症がもたらす生活環境の変化
認知症にはアルツハイマー型認知症をはじめいくつか種類がありますが、脳血管性認知症以外は回復が難しいのが現状です。病状の進行とともに社会生活・日常生活を送るために必要な、様々な能力が低下していきます。 認知症と診断された方の中には、本人・家族の離職や施設入所など、家族とともにそれまでの生活を大きく変えざるを得ない場合もあるでしょう。
認知症が家計に与える影響
2016年の家計経済研究所による調査では、「要介護4か5で、認知症も重度」の場合、1か月平均13万円の支出があり、要介護度が低い場合でも、認知症の程度が重くなると介護費用が増えています。 また2015年に発表された慶応義塾大学・厚生労働科学研究による「認知症の社会的費用」についての共同研究によると、認知症患者1人に対して家族が無償で実施するケアにかかる費用「インフォーマルケアコスト」は、年間382万円、ケアの時間については週に24.97時間となっています。 認知症の程度や介護度により実際の状況は異なりますが、認知症介護では家族が負担する時間や費用がいかに大きいかが明らかになりました。
出典:家計経済研究所、慶応義塾大学・厚生労働科学研究「認知症の社会的費用」
認知症にお金がかかる理由
認知症では、中核症状のみならず、徘徊や暴力などのBPSD(行動・心理症状)が問題となることも多いでしょう。通常の医療・介護費に加え、そういった症状が原因で予想外の費用がかかることもあるのです。家計に与える影響として、主に以下のようなケースがあります。
離職による収入減少
現役で働いている本人が認知症になった場合や、家族が介護を理由に離職しなければならなくなった場合、家庭の収入は減ることになります。
見守り・付添サービスにかかる費用
認知症介護では介護度が低くても常時付添が必要になることがあるため、公的介護保険制度内では必要なサービスを充分に受けられるとは限りません。全額実費負担となる保険外サービスを利用せざるを得ないケースがあります。
同居の準備にかかる費用
常時見守りが必要で、子ども世帯と同居するという場合、住宅リフォームなど環境を整えるための費用や、引っ越し費用などが必要となります。
施設入所にかかる費用
グループホームなど、認知症対応の介護施設へ入所する場合、まとまった入居費用が必要となります。
BPSD(行動・心理症状)によるトラブルへの賠償
徘徊をして事故を起こす、物を壊す、他人に危害を加えるといったことが起こった場合、賠償金を請求される可能性があります。
経済的負担・不安を軽減する一つの手段「認知症保険」
このように認知症介護による経済的な負担は、時として家計を大きく圧迫し、生活が困窮してしまうこともあります。そういった深刻な事態を回避し、認知症になる前から備えておく1つの方法として「認知症保険」があります。
認知症を保証する保険は、以下の3タイプに分かれます。
認知症に特化した保険
認知症と診断された場合に、保険金が下りる保険です。
太陽生命 「ひまわり認知症治療保険」
他社に先駆けて発売された、一時金型の認知症保険です。7大生活習慣病や女性特有の疾患、骨折など幅広くカバーし、「健康に自信がない、過去に病気やけがをしている方にもおすすめ」とうたっている商品です。契約後の削減期間1年間は給付金が半額ですが、器質性の認知症と診断され、所定の見当識障害が180日続くと保険金が支給されます。
朝日生命 「あんしん介護 認知症保険」
一時金タイプ・終身年金タイプのどちらか、もしくは両方を選択できます。認知症の診断後、要介護1以上で保険料の支払いが免除されると同時に年金の支給が開始され、一生涯続きます。器質性認知症と診断され要介護3以上で一時金が支給されます。給付金手続きに必要な診断書の取得を無料で代行する独自のサービス「診断書取得代行サービス」 があります。
メットライフ生命 「Flexi S」「「Flexi Gold S」(単体の保険ではなく、終身医療保険)
「Flexi S」「「Flexi Gold S」の特約として認知症を保証する一時金型の商品です。契約後180日の待期期間があるものの、介護度・症状のある期間などは関係なく、認知症の診断後すぐに支給されるため、初期の治療費に充てることができます。
認知症の保証が含まれる保険
介護などに関わる保険商品に、認知症に関する保証が含まれたものです。
アフラック スーパー介護年金プランVタイプ
認知症の診断後、所定の見当識障害が3か月以上続き、要介護状態になると、一時金・年金の両方が支給され、以後の保険料の払い込みは免除されますます。
日本生命 「みらいのカタチ」の「介護保障保険」
上記のほか、その他保険の特約として認知症を保証する一時金または年金タイプの商品です。器質性認知症と診断確定され、見当識障害で要介護2~5の状態が180日以上続くと保険金が支給されます。
第一生命 介護年金保険「クレストWay」
公的介護保険において要介護2以上と認定された状態が180日継続すると年金が支給されます。更に特約付加により一時金を受け取ることができるプランや、要介護1の状態に備えるプランもあります。
損害保険
JR東海の線路に認知症患者が侵入し、事故を起こした事件を受け、保険会社や自治体でも対策が取られています。
三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険は、認知症患者が線路に入り電車を止めた場合にも補償の対象になるよう個人賠償責任保険を見直しました。
また、東京海上日動火災保険、損保ジャパン日本興亜は、被保険者が重度の認知症など責任無能力である場合、その監督義務を負う別居の家族らも補償の対象になるよう個人賠償責任保険の見直しをしました。
その他、神奈川県大和市は、線路に侵入し電車を止めてしまうケースに対して全国初で自治体として公費で保険料の負担を開始し、最大3億の賠償金が支払われるそうです。
出典:三井住友海上火災保険 あいおいニッセイ同和損害保険「個人賠償特約の販売開始」、東京海上日動 「補償に関する特約」、損保ジャパン 「12 個人賠償責任特約等における被保険者範囲の拡大」、神奈川県大和市 平成29年市長定例記者会見資料「はいかい高齢者個人賠償責任保険事業を開始」
認知症保険 選択のポイント
認知症に特化した保険がいくつも出てきており、どれを選んだら良いのか迷う方も多いでしょう。 選び方のポイントとしていくつか例を挙げてみます。
「認知症になっても在宅で」と考えている場合
定期支給の年金タイプであれば、毎月の介護費用に充てることができます。
街中や線路に近いところに住んでいる場合
徘徊時の事故などに備え、損害保険も検討の余地があります。
住宅リフォームや施設入所を考えている場合
一時金が出る商品を選べば、初期費用に充てることができます。
また、月々支払う保険料、加入時の審査基準や支給時の条件も様々で、現在の経済状態や年齢・健康状態により選択肢は変わってきます。更に、保険金を受け取れない待期期間や半額になる削減期間の有無、保険料の払い込み期間も終身から年数が決まっているもの、要介護状態で免除になるプランもあり、各社様々です。
自分にとってどれが適当なのか、条件を検討してみましょう。現在加入中の保険があれば、内容が重ならないよう慎重に考え、保険全体を見直す必要もあります。ファイナンシャルプランナーに相談するという選択肢もあります。
他人ごとではない認知症 いざというときのために備えを
世間の要望に応える形で誕生した認知症保険。加入者数は保険会社の予想を上回り伸びているとのことです。他の保険に比べると保険料は全体的にやや高めですが、それだけ認知症に対して不安を感じている人が多く、需要が高いということなのでしょう。
認知症は誰でもなり得ます。決して他人ごとではない身近な病気であり、上述の通り、現段階では公的介護保険制度ですべてをカバーすることは難しいことがわかっています。 認知症保険は、少しでも不安の少ない老後を過ごすための、選択肢のひとつと言えるでしょう。
認知症保険に加入する場合、認知症を発症し自分自身が契約を忘れてしまう可能性も考え、加入の際には家族にきちんと知らせておきましょう。
※記事中の各社の保険に関する記述は、2017年11月現在の各保険会社等のホームページの情報をもとに、認知症ねっと編集部が記載しております。最新の情報については、各保険会社のホームページをご覧ください
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