認知症によるうつ(抑うつ)状態〜うつ病との違いは?

認知症のBPSD(行動・心理症状)のひとつに「うつ」があります。このページでは認知症に由来するうつ状態について説明するとともに、うつ病との違いについてご説明します。

この記事の目次
  1. BPSDとしてのうつ状態
  2. うつ病との違いは?
  3. 悲観と自責の念の有無
  4. 記憶障害の有無
  5. 症状の進行スピード
  6. 理解力・判断力の有無
  7. 大きなライフイベントやきっかけの有無
  8. うつ病と併発の可能性も
  9. 医療機関を受診してください
  10. うつ状態の認知症の方への対応

BPSDとしてのうつ状態

認知症になり、様々な認知機能が落ちてくると、日常生活に支障が出てきます。できないことが増えるため、気分が落ち込むうつ(抑うつ)状態が見られることがあります。

意欲の低下や不眠、食欲が落ちたり何事にも興味・関心を示さなくなることから、うつ病と誤解されがちですが、認知症のBPSDとしてのうつ状態です。うつ病が悲観的なのに対し、認知症によるうつ状態は無関心が多いと言われています。

うつ状態はあらゆる認知症で見られる症状ですが、特にレビー小体型認知症で多く見られる症状として挙げられています。

認知症ねっとでコラムを連載している今井先生は、以下のように説明しています。

DLB(レビー小体型認知症)の初期症状として比較的多いのがうつ気分で、6~7割に出現すると言われています。(中略)元気がない、表情がさえない、何もかも面倒がる、などの症状は、多くの場合、心の病気というよりもむしろ「年のせい」と思ってしまう家族の方が多いようです。

ユッキー先生の認知症コラム 第20回 レビー小体型認知症のケア(2)より

うつ病との違いは?

症状が似ているうつ病と認知症によるうつ状態ですが、どのような違いがあるのでしょうか。高齢者のうつ病と認知症は似ている症状もあるため、専門の医師による診察が必要です。

今井先生のコラムには、特にレビー小体型認知症におけるうつ状態について、以下の説明があります。

私の臨床経験から、老年期うつ病や血管性うつ病(脳の循環障害が原因で出現するうつ病)などの一般の高齢者に見られるうつ病と比較しますと、身体症状の訴えは少ないように思います。すなわち、「身体がだるい」「足、腰が痛い」「疲れやすい」「頭が重い」などのあいまいな身体症状の訴えはDLBの患者さんに少なく、むしろ「いつもより元気がない」「何もしようとしない」などの活動性の低下が目立つようです。

ユッキー先生の認知症コラム 第20回 レビー小体型認知症のケア(2)より

では、認知症とうつ病の違いを具体的に見ていきましょう。

悲観と自責の念の有無

認知症初期の、まだある程度の判断力が保たれている時期には、自分の認知機能の低下を不安に感じることが原因で、うつ状態になることはあります。そして、症状が進行すると無関心になっていく傾向があります。

うつ病の場合は、「自分は価値がない人間だ」「消えてしまいたい」「生きる意味が分からない」など自分の状態を悲観したり、自責の念が強く、自殺願望に発展することもありますが、認知症の場合は、意欲の低下は見られるものの、思い詰めることはほとんどないと言われています。

記憶障害の有無

もの忘れのページで説明しているとおり、認知症は初期には軽いもの忘れから始まり、徐々に進行していきます。認知症の場合は「自分が行ったこと自体」を忘れてしまいます。忘れたこと自体を忘れてしまうため、状況がわからない不安感はあるものの、もの忘れ自体は直接的なストレス要因にはなりにくいと言われています。

うつ病でも記憶障害がありますが、突発的に少し前のことを忘れてしまい、そのことを自覚しているため、焦燥や不安を感じてしまいます。

症状の進行スピード

認知症は徐々に悪化していきます。進行のスピードがゆっくりであるため、最初は気づきにくいと言われています。

うつ病の場合は、きっかけとなる出来事があることも多く、そのタイミングから様々な症状が現れます。

理解力・判断力の有無

認知症は症状が進むと、理解力や判断力が落ちてきます。うつ病も判断力の低下は見られますが、認知症の判断力低下と少し現れ方が違います。

例えば何かを尋ねたとき、認知症の場合は見当はずれな返答が返ってくることがありますが、うつ病の場合は、考えてはいるものの答えられない、「わかりません」という返答をする場合が多くなります。

大きなライフイベントやきっかけの有無

特に高齢になってからのうつ病は、定年退職や伴侶との死別、子世代との同居など、その人にとって大きなライフイベントがきっかけになるケースが多く見られます。

認知症ねっとでもインタビューを掲載している高橋正彦先生は、上記のようなライフイベントがあった時にうつ状態にならなかった人に、突然うつの症状が現れた場合は、認知症かどうかの診察や検査を勧めています。つまり、きっかけがあってもうつ病を発症しなかった人がうつ状態になった場合、認知症の恐れが考えられるということです。

うつ病と併発の可能性も

認知症とうつ病の違いの目安を説明しましたが、認知症とうつ病を併発しているケースもあります。この場合、うつ病が認知症の症状に拍車をかけたり、認知症を発症していることで、うつの症状が悪化するという悪循環に陥る可能性があります。

また、うつ病が原因で、認知症のような症状を発症する「仮性認知症」と呼ばれる状態があります。これは認知症とは違ったメカニズムで発症するもので、早期に適切な治療を行うと、症状が改善すると言われています。

いずれにせよ、専門の医師による診断が必要ですので、兆候がある場合は専門機関を受診しましょう。

医療機関を受診してください

まだ認知症の診断がついていない場合、特にレビー小体型認知症は初期にうつの症状が出やすいため、うつ病だと思っていたら認知症だった、というケースも見られます。

そのほか、薬の影響でうつ状態を引き起こす場合もありますので、自己判断せず、医療機関を受診することが大切です。

うつ状態の認知症の方への対応

認知症のBPSD全般について言えることですが、何らかのストレスによって引き起こされていると考えられます。そこで、大切なことはそのストレス要因を見つけ、軽減することです。そのためには、介護する側がイライラしたり、認知症の方に何かを無理強いすることなく、ゆっくりと話をしたり、居心地の良い時間を過ごす努力が必要です。

うつ状態の場合、話しかけても反応が乏しい場合もあります。しかし、話は聞いてくれていますし、一緒に過ごす時間を嬉しく思っているかもしれません。ただし認知症の方は、たとえ嬉しくとも、気持ちを表現しづらくなっています。そのことを理解した上で、介護に取り組んでみましょう。


参考文献:1)服部安子.認知症ケアの真髄.フジメディカル出版,2018,p279‐280.


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