第29回 プロの認知症ケア

認知症ケアのプロとはどのような人たちでしょうか。
日本認知症ケア学会で認定している認知症ケア専門士は、その代表的な有資格といえます。現在認定者は3万人を超え、さらに認知症ケア専門士を育てる上級認知症ケア専門士が全国で約500人が活躍しています。

また、認知症ケアを専門としているわけではありませんが、高齢者介護全般にわたって専門技術を持つ介護福祉士も認知症介護のプロといえましょう。

認知症看護のプロには、日本看護協会が認定する認知症看護認定看護師が病院や介護施設で活動しています。そのほか、介護支援専門員やホームヘルパーも認知症介護に携わる専門家と言えます。

では、これら認知症ケアのプロとはどのような技術を持った人たちなのかご説明しましょう。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 認知症ケアとは
  2. 認知症ケアの専門性とは
  3. 尊厳を支えるケア
  4. ユッキー先生のアドバイス

認知症ケアとは

最初に認知症の専門家ケアについて私の考えを述べましょう。
ここで言うケア(ここではケアと介護は同意語とします)とは、個別的で、個人に向けられた援助や支援を行う行為です。

認知症のケアについて、その定義や理念を日本で初めて明確に提唱したのがおそらく室伏君士博士ではないかと思います。室伏先生は、有吉佐和子氏が「恍惚の人」(1982年)を発表した2年後の1984年に「痴呆老人の理解とケア」(今剛出版)の著書の中で『老年痴呆者のケアの原則(20か条)』を提唱しました。

そこで、「・・・このような老人(痴呆の人)にケアをしてゆくということは、その心を知って、その生き方にそって、生活や情況をふさわしくして安定化をはかる中で、生きれる人間へと援助してゆくということになる」とし、「理に適ったケア」を提唱しました。

そして、日々の認知症の人同士の会話や仲間関係の観察から「認知症者の尊厳を支え、生き方を支えるケアの実践は、認知症者に安寧をもたらす事に繋がり、そこに認知症ケアの理念がある」と説いたのでした。

すなわち認知症ケアは、良好な「なじみの関係づくり」であり、この関係づくりを積極的にケア実践に活用することの必要性を力説したのでした。

日本認知症ケア学会が発刊している認知症ケアの教科書の中で長谷川和夫博士(認知症ケア標準テキスト。ワールドプランニング)は「認知症をもつ人もまったく同じように独自の自分をもつ。自分らしさ、ユニークな個性をもって生きていこうとする。個別的な人間存在の基にある姿こそがパーソンフッド( personhood:個人性)であり、その人らしさに通じるのである。ここに個人のもつ尊厳がある。その人らしさを中心におくケアこそが、人の尊厳を支えるケアに他ならない。」と、高齢者の尊厳を支えるケアの重要性をトム・キットウッドパーソンセンタードケアの理念から説明しました。 

20年前に唱えられた室伏先生の「その心を知って」が長谷川先生の「個別的な人間存在」に、「生きれる人間」が「自分らしさ、ユニークな個性をもって生きていこうとする」と表現が変わってもその基本的理念は変わりません。

その他に多くの研究者や実践家が高齢者ケアや認知症ケアの理念について述べていますが、そのキーワードが「生活主体」、「エンパワーメント」「尊厳」であり、これらは抽象的な表現ではありますが、ケアの理念に欠かせないキーワードです。

そこで、私の考える認知症ケアとは、認知症を持った人が自立した生活を送れるように、彼らの生活を整えることを目的にした日常生活の支援行為で、そこにはその人らしさを中心におく尊厳を支える支援と認知症の人自身のもつ力を十分に発揮できるように支援していくこと、です。

すなわち、認知症の人のこれまでの生活やその人の個性を尊重し、彼ら自身のペースで安心して過ごせるためにケアすることこそが認知症ケアの向かう方向です。


認知症ケアの専門性とは

認知症ケア専門士をはじめ介護福祉士や介護支援専門員などの専門資格を有している専門家は、認知症ケアに関する専門的な知識や能力を有しているプロの介護者です。これらの資格は、名称独占といって、その資格を与えられた人だけがそれらの名称を使用することができます。しかし、この資格を持った人だけが認知症ケアに携われる、といった業務独占の資格ではありません。

それでは、これらのプロの介護者はどのような能力・技術を持った人なのでしょうか。すなわち、認知症ケアに関する確かな知識とすぐれた技術を実践の場で有効に活用できる他に秀でた能力を有する専門家であり、具体的にどのような能力を持つ人か、私なりの考えを述べましょう。

認知症ケアの専門性とは、おそらく以下の7つの能力を持ち合わせている人ではないでしょうか。

1. 認知症ケアの原理・原則を理解し、認知症の人の人権擁護やエンパワーメントを含めた尊厳を支えるケアの理念の基で認知症ケアを実践できる能力。

2. 認知症を病気として理解し、認知症の診断方法、治療法(薬物療法、リハビリテーション、非薬物療法など)、口腔ケアやターミナルケアなど、医療保健に関する最新の知識を理解し説明できる能力。

3. 認知症の人の身体状況や心理的側面、取り巻く環境、社会資源、さらには高齢者福祉など学際的な知識をケアに役立てることができる能力。

4. 認知症の人への支援に当たり、彼らやその家族介護者のニーズを明らかにする手段と、それを基にそれぞれの専門分野での支援のためのプランを作成し、実行する能力。

5. これまでの豊富な経験をそれぞれの専門分野で活用できる能力。

6. 他の専門分野と密接な連携が持てる能力。

7. 実施したケアの効果を検証できる能力。


すなわち認知症ケアの専門性とは、認知症という病気の特徴を十分に把握した上で、認知症の人やその家族へ、彼らのニーズに即した生活支援を行うことです。

そのためには、その認知症の人がどのような状況にあって、どのような支援をしたらよいのか検討し(これをアセスメントといいます)、支援のための計画を立て(これをケアプランといいます)、これがスムーズに実施されるように支援体制を整備することができる能力です。
このケアを実践していくに際しての必要な基本的能力が認知症の人への尊厳をさせるケアの実践能力です。


尊厳を支えるケア

認知症ケアを行うプロにとって「認知症の人の尊厳を支えるケア」は、そのもっとも基本的な実践能力です。この尊厳を支えるケアとは、どのようなケアを実践していくことでしょうか。

著書「パーソン・センタード・ケア(水野裕監修)」では、その著の冒頭に(1)人々の価値を認める、(2)個人の独創性を尊重する、(3)その人の視点に立つ、(4)相互に支え合う社会環境を提供する、ことをパーソン・センタード・ケアの実践理念を掲げています。
これについては、「VIPSですすめるパーソン・センタード・ケア:ドーン・ブルッカー著(水野裕監修):かもがわ出版、京都、2010年」をお読みください。

これを提唱したのがトム・キットウッドですが、この理念の中には「人の絶対価値」を認めることの大切さが秘められていて、これが「尊厳を支えるケア」の実践であるといってもよいように思います。

また、尊厳を支えるケアは、「身体的自立支援を含み、その上位にある精神的自立支援と、人間性の尊重を目的とするものである」と堀田力博士は述べています(高齢者介護研究会報告:2015年の高齢者介護―高齢者の尊厳を支えるケアも確立に向けて。法研、東京、2003年)が、ここでの「人間性の尊重」とは「人権を守る」ことに繋がるとも考えられます。

このように「尊厳を支えるケア」の説明には、“人の価値”、“人間性の尊重”、“人権を守る”などのキーとなる言葉が思い浮かべます。では、なぜこのような考えをもって認知症の人にケアしていくことが重要なのでしょうか。

認知症は、脳の病気によって、エピソード記憶が障害され、それに伴い見当識、判断力、理解力、適応力などの認知機能が障害されることで学習と知識の応用、課題の遂行と要求、コミュニケーションなどの個人の日常活動を行っていくうえで必要な能力が冒され、一人では生活が困難になります。

すなわち他の場所に移動すること、自分の身の回りのことを行うこと、家庭生活、対人関係など、生活場面や生きていくことに関わる行為を行っていくことが難しくなります。同時に、社会生活・市民生活の参加などのさまざまな機会や権利の遂行が困難となります。

認知症のケアは、日常生活の適用と遂行を整える事を目標に、治療としての個別的な関わりの医療と、認知症の人が自由に活動でき、制限なく日常生活・社会生活に参加できるような環境を提供することを基本にしています。同時に、認知症者の人権に配慮したケア、すなわち権利擁護を最優先にしたケアが求められます。

私がこのコラムを初めて今回で29回目になります。このテーマは私にとって常に念頭にあったテーマですが、なかなかこの「尊厳を支えるケア」をどのように説明して良いのか、まとまりませんでした。

多くの専門家がこのテーマに対しての理論の構築を試みていますが、介護の現場では「尊厳を支えるケア」の実践をどのようにしたらよいのか、明確にされていないのが現状ではないでしょうか。

次回のコラムでは、もう少し認知症ケアの実践について解説しましょう。また、プロの介護者がどのような実践をしているのかもわかりやすくご説明しましょう。

ユッキー先生のアドバイス

家族の方がアルツハイマー型認知症と診断され場合、また認知症を疑った場合に、その方のケアや今後の処遇について誰に相談すればよいのでしょうか、との質問をよく受けます。

まずは、地元の市役所などの地域の役所に問い合わせ、近くの地域包括支援センターを紹介してもらいましょう。そこには、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーが常駐し、在宅での認知症のケアに関わる問題の内容に応じて、それぞれの専門家が相談に応じてくれます。

各種専門家の主な役割として保健婦は、地域高齢者の認知症予防活動に関する様々な活動や個人的な相談、また認知症医療に関する相談等を受けます。

社会福祉士は、主に成年後見人制度の活用や認知症の人への虐待の問題などの認知症の人の人権にかかわる相談等を受けます。主任ケアマネジャーは、介護保険サービスなどの社会資源の利用や在宅での介護に関する困ったことなどの相談に応じます。


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