第19回 レビー小体型認知症のケア(1)

前回のコラムでは、レビー小体型認知症(DLB)についてご説明しましたが、今回と次回の2回にわたってその対応について述べましょう。とは言っても、DLBに特有のケアの方法があるわけではありませんが、DLBに見られる特徴的な症状に対してどのように対応するか、そのポイントをお話します。

この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 転びやすい、上手く歩けない、からだが硬い
  2. 1.パーキンソン症状とDLB
  3. 2.ケアの留意点
  4. 天井に虫がぶら下がっている、そこに赤ん坊がいる
  5. 財布を盗んだ、浮気をしている、のけものにしている
  6. ユッキー先生のアドバイス

転びやすい、上手く歩けない、からだが硬い

1.パーキンソン症状とDLB

前回のコラムで紹介した桜井修一さん(仮名)の場合、当初転びやすくなったことを妻の裕子さん(仮名)は歳のせいと、さほど気にかけませんでした。そして、受診のきかっけは、転倒による怪我によるもので、最初内科の医師は、パーキンソン病を疑ったのでした。では、このパーキンソン病とはどのような病気なのでしょうか。

パーキンソン病は、脳の中の神経の働きに関与するドーパミンという物質が少なくなる事により、錐体外路という神経の通り道の働きがスムーズでなくなるために、身体の動きがぎくしゃくしてきます。よく見られる症状としては、歩き始めようとしてもなかなか最初の一歩が出ず、細かな足ふみが続き、歩き出すと、前かがみで、小股・すり足で歩くという特徴的な歩行を見せます。時には、いったん歩き出すとこの前かがみの姿勢のまま、前に突進するような動きを見せ、転倒することがあります。その他、筋肉や関節が固くなるために、なんとなく全身の動きがぎくしゃくしているように見えます。また、顔面の筋肉もスムーズな動きが失われますので、表情に乏しくなり、小声になります。食物の飲み込みが悪いために誤嚥に注意が必要です。初期には、手指を使う行為の時に指先の細かい震え(振戦といいます)がみられ、進行すると何もしない時も常に手指が細かく震える振戦がみられます。ただし、DLBのばあいは、この手指の振戦は、さほど頻度が高い症状ではないと報告されています。

DLBでは、パーキンソン症状がその中核症状として重要な症状と言われていますが、必須ではありません。中には、このパーキンソン症状がなく、進行性の認知機能の障害と幻覚が主のDLBもみられます。また、DLBの初期からパーキンソン症状がみられる場合と、認知症の症状が出現してからやや遅れてみられる場合の2つのタイプがあります。

2.ケアの留意点

パーキンソン症状で最も注意が必要なのは転倒です。しかも転倒した時に手をつき身を守るなどの咄嗟の回避行動がうまくできませんので、大けがにつながることがしばしばです。それゆえパーキンソン症状のケアで重要なのが転倒予防と運動機能の向上です。

転倒予防の最も効果的なものは、低下していく運動能力をできるだけ維持させるためのリハビリテ―ションです。無論、専門的なリハビリを定期的に受けることは良いことですが、週1回程度のリハビリでは十分とは言えません。ですから、家庭でも積極的にリハビリを心がけることが必要ですが、どうのようにすればよいのでしょうか。

ここで、家族の方に理解していただきたいことがあります。まずは、DLBは認知症の病気ですので、パーキンソン病の人とは違い、ご本人の病気に対する自覚が欠けています。まして、衰えて行く運動能力に危機感を感じて自分から積極的にリハビリをしようとは考えません。リハビリをするうえでの最も効果的なのは、本人が意志をもって行うことです。すなわち、「治したい」という強い気持ちですが、それが認知症の人には望めません。ですから、まずはご本人がリハビリに興味をもつためのケアが必要です。家庭でのリハビリのポイントを以下に示しましょう。

(1)まずは、ご本人がなぜリハビリが必要なのかを理解する事が重要です。それには、主治医から直接ご本人に、分かりやすい言葉で、病気のこと説明してもらいましょう。なかなか1度や2度では理解できません。外来受診ごとに説明していただくのが良いのでしょうが、ご家族もなぜリハビリが必要なのかを家庭でことあるごとに説明してください。例えば「お父さんは、このままほっておくと、筋肉がどんどん弱って、歩けなくなってしまう病気です。だから頑張ってリハビリしましょう」といったふうに。

(2)ご本人の意志を引き出すためには、ご家族の工夫や努力も必要です。たとえば、朝夕の散歩は効果的ですが、周囲が「散歩しなければダメでしょう」と叱責しても、積極的に散歩しません。多くの人は、一人では散歩を楽しめないのです。もし可能であれば、家族も一緒に散歩して下さい。また、スーパでの買い物や、目的のある外出などは、自然と長い距離を歩いているものです。要するに、「リハビリの為の散歩」でなく、「本人が楽しむ為の散歩」を心がけてください。

(3)転倒予防のための機能訓練は、外出しなくとも家でもできます。例えば、家の掃除や洗濯物の取り込み、お風呂やトイレの掃除など、家事を家族と一緒に行うことは、とても良いリハビリです。家事は、下肢の筋肉の強化に繋がりますが、さらによいことは、上肢や手指を使うことが多いことです。特に細かい作業は手指を使いますので、筋肉の固縮(筋肉が硬くなること)の進行に有効です。

(4)家事仕事は、本人が進んで行えるリハビリなのです、洗濯、掃除、食器洗いなどは、きれいになった結果が見えますし、介護者から「助かったわ」と礼を言われると、片づいてきれいになったことに加えて、自分にも役割がある事の満足にも繋がります。そうなると、毎日これを続ける事ができ、よいリハビリになります

天井に虫がぶら下がっている、そこに赤ん坊がいる

幻視は、DLBの主症状で、約80%の患者さんに見られます。その多くは人物や動物・虫の幻視で、中には「誰かがいるような気がする」などの実際にはいないのに、いるように感じることや、「天井が歪んでみえる」などの、ものが変形して見えるという訴えもあります。また、壁にかけてある時計が人の顔に見えたりする錯覚もDLBの人には多いようです。

最近の例ですと、「部屋の中の黒い丸の中から顔の大きい人、目が青い人、鼻が崩れている人が出てくる、色々な人が出てきて怖い」とリアルにその状況を説明した患者さんがいました。実際、そのような顔の人が部屋にできた黒い穴から出てきたら本当に怖いでしょうね。でも、私の臨床経験では、恐ろしい顔をした人間、あるいは蛇や大きなクモであっても、怖い、気持ち悪いと表現をしますが、さほどの深刻味を感じない訴え方で、淡々とした口調で説明している方が多いのが特徴的です。

そのようなDLBの患者さんの対応、ケアはどのようにしたら良いのでしょうか。多くの介護に関連する本には、本人の幻視に対して、「そんなんのいない」「そんなの見えない」「錯覚じゃないですか」などと否定してはいけない、また、介護者が見えないものに対して追い払うことも有効、などとその対応方法が説明されております。それらの説明は正しいかもしれませんが、わたしは医師の立場から、「脳の病気の一つの症状」と説明します。「怖い顔が見える」と訴えていた患者さんへとの診療時のやり取りを再現してみましょう。

(筆者)「あなたが部屋の中でみた顔の大きい人、目の青い人など気持ち悪い人は、実際、娘さんにも私にも見えないのです。あなただけに見えるのです。なぜ、他の人には見えない人の顔があなたに見えるのか、といいますと、あなたに脳の病気があるからです。それは、幻視と言って脳の病気の症状の一つなのですよ。脳の病気によって、脳の中が混乱して、正しい情報をあなたに伝えず、誤った情報をあなたに教えているのです。この病気を治すようにしましょう。」

(患者)「治るのですか」
(筆者)「完全に消えてしまうか、どうかはわかりませんが、少なくとも見える回数が少なくなり、気にならなくなりますよ」
(患者)「でもみんなが分かってくれない」
(筆者)「そうですね。この病気の辛く、悲しいことは、周りの人にいくら言っても信じてくれないことですよね。それは、他の人には見えないのであなたの言うことが信じられないのですよ。でもあなたにははっきり見えているのですよね。」
(患者)「その通りです。」
(筆者)「病気ですから治しましょう」
(患者)「宜しくお願いします。」

他例では、初診の患者が診察室に入室した時に「椅子に変な奴がいる、俺を見ている」と騒ぎ、大きな声を挙げ、診察を拒否しました。その時に「○○さん、そんな人は私には見えませんよ。あなたには見えるのですね。他の人には見えない人が見えるのは脳の中に病気があるからですよ。ここで是非検査を受けて治しましょう」となんども説明しましたところCT検査を拒否なく受け、入院を勧めると、素直に応じたのでした。

ここでの対応のポイントは、本人に病気であることを明確に説明することです。また、本人の怖いこと、気持ちが悪いことに対して、「そうでしょうね」と共感し、同時に「周囲の人は見えないので、その怖いことを分かってくれないのが悲しいですよね」と本人の気持ちを察してあげることです。本人にいくら誰もいないと説得しても、本人には見えているわけですので、かえって介護者に対して不信感を抱くだけです。

財布を盗んだ、浮気をしている、のけものにしている

妄想とは、訂正することが不可能な間違った考えです。「お前が財布を盗んだ」「夫が女にお金を貢いでいる」「みんなが私をのけものにする、意地悪をする」など、実際には、ないことを本当の事と思い込んでしまい、いくら「そのようなことはない」と説明しても、決して「勘違いしていました」と自分の考えを訂正することがないのが妄想です。また、妄想の相手が身近な人に多いのも、認知症の妄想の特徴です。いつも世話をしている家族にとっては、その本人にドロボー扱いされることはたまりませんし、身に覚えがない浮気の話を持ち出されるのも耐えられません。ただ、認知症の人の妄想は、固定した内容がいつまでも継続するものではありません。状況によって内容が変わることが特徴です。たとえば、「財布を盗んだ」が「通帳を盗んだ」「お金を盗った」に変化します。

このようは妄想に対する対応は、実際に本人はそのことを真実と思い込んでいるので、「そのようなことはない」といくら訂正してもそれは聞き入れてもらえません。そこで認知症の人の妄想を否定するのでなく、本人に妄想の内容と同じことを質問してみてください。例えば、

(本人)「お前が財布を盗んだ」
(介護者)「「私が財布を盗んだのですか?」
(本人)「そうだ、お前が盗んだ」
(介護者)「えっ、私が盗んだのですか」
(本人)「そう、お前が財布を盗んだ」
(介護者)「「私が財布を盗んだ?」
(本人)「そうだ」
(介護者)「「私でしょうか? 一緒に探してみましょう」
このようなやり取りをしていると、本人は答えることが面倒になり、
(本人)「もういい」と投げやりになります。その話題から離れようとしたときに
(介護者)「お茶でも呑みますか」と、違うことに関心を向けてみてください

他の内容の妄想に対しても同じような対応が効果的です。ただ、私の臨床経験では、対応に苦労することが多いのが嫉妬妄想です。「浮気をしている」と配偶者を攻めたてている時も、まずは同じように本人に問い返すのですが、本人は、話をはぐらかされているように見えて、怒りがエスカレートし暴力行為に出ることがあります。この場合の対応は、まずは一旦本人との距離をとるために、トイレに立ったり、他の部屋にいったりしながら、少し間を取るのも効果的です。また、嫉妬妄想の背景には、見捨てられ不安がありますので、普段から本人に対して、安心感を与えるような言動も必要です。

ユッキー先生のアドバイス

今回は、DLBの転倒、幻視、妄想の対応について述べました。実際のところ、これらの症状への対応には限界があります。なぜならば、脳の神経細胞の変性にともなって出現する症状ですので、介護環境を改善すれば軽減するといった認知症の人に良くみる生活上の混乱とは異なります。ですから、まずは専門医に相談してください。多くの場合に、これらの症状に対して抗パーキンソン剤や抗精神病薬を用いますが、前回も述べましたように、これらの薬物に対する副作用が問題となります。ですから、必ず、もの忘れ外来やメモリークリニックのような専門診療科を受診してください。受診した後に必要なのは、お薬の知識と正しい使い方です。

次回は、DLBによく見られる感情障害や自律神経障害の対応について述べましょう。また、睡眠障害も特徴的な症状ですので、この件についてもお話し、そして、正しいお薬の知識と使い方についてお話しましょう。


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