今野先生コラム「食事で認知症予防」第1回:ポリフェノールと認知症

2017年6月22日

ブレインケアクリニック院長 今野先生コラム「食事で認知症予防」

今野裕之先生

認知症予防の中でも特に関心が寄せられている「食事」。多くのメディアで様々な食材や栄養素が取り上げられる中、どんなものをどのように摂ったらよいのか、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。

そこで、認知症予防のプログラムを提供するブレインクリニックの院長であり、栄養についても詳しい今野裕之先生が、栄養・食事についてシリーズで解説。皆さんに正しい情報をお伝えします。


この記事の執筆
今野裕之先生
ブレインケアクリニック 院長
今野裕之先生
この記事の目次
  1. ポリフェノールと認知症
  2. ポリフェノールってどんなもの?
  3. ポリフェノールの効果って?
  4. 緑茶でお馴染み カテキン
  5. ウコンに含まれるクルクミン
  6. サプリで摂ろう! フェルラ酸

ポリフェノールと認知症

ポリフェノールってどんなもの?

ポリフェノールとは、植物の色素や苦み、香りを作っている成分です。ポリフェノールは主に植物の皮に含まれており、植物を紫外線や害虫などから保護する役割をもっています。

ポリフェノールには様々な種類があります。大豆のイソフラボン、コーヒーのクロロゲン酸、ブルーベリーのアントシアニンなどはみなさんも聞いたことがあるかもしれません。少し前にはブドウの皮や赤ワインに含まれるレスベラトロールが、長寿遺伝子を活性化するとしてテレビで紹介され、大変な話題になったことがありました。

ポリフェノールの効果って?

このようなポリフェノールには多くの場合、抗酸化作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用などがあり、私たち人間がポリフェノールを摂取することによって酸化や炎症などの老化を早める要因を抑制し、長寿や健康維持に役立つと考えられています。中でも、カテキンやクルクミン、フェルラ酸などは特に認知症予防に役立つと注目されている成分です。

今回はこれらについて詳しく解説していきましょう。

緑茶でお馴染み カテキン

私たち日本人にはおなじみの、緑茶に含まれるポリフェノールです。上記のような抗酸化作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用の他、抗菌作用、血圧上昇抑制作用、脂質代謝改善作用、血糖値調節作用、抗アレルギー作用など多彩な作用が報告されています。

認知症に関しては、カテキンはアルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβたんぱくやタウたんぱくの凝集を抑制し、その毒性を弱めることが報告されています。さらに、レビー小体型認知症の原因物質とされるαシヌクレインというたんぱくの凝集を防ぐことも報告されており、認知症予防の観点からは欠かせない成分です。

人工的にアルツハイマー病を発症させたマウスを使った実験では、カテキンを2ヶ月間投与したところ大脳皮質や海馬などにおけるアミロイドβたんぱくの量が減少したことが確認されました(1)。実際、仙台市郊外の70歳以上1003名を対象とした横断調査で、緑茶を1日2杯以上飲むと、週3杯以下の場合に比べて認知機能低下のリスクが半減することが示された(2)といったものがあります。 ちなみに、この研究では紅茶・烏龍茶、コーヒーを飲む人と比較しているのですが、残念ながら緑茶以外では認知症予防効果は見られませんでした。

さらに石川県で行われている60歳以上の住民を対象とした5年間の調査では、緑茶を飲まない人たちに比べ、週に1〜6日飲む人たちでは軽度認知症を発症するリスクがおよそ半分に、毎日飲む人達ではおよそ3分の1になったことがわかりました(3)。

カテキンのような抗酸化力のある成分は、酸素に触れたり加熱されたりするとすぐに変質してしまいます。コーヒー・紅茶党の方も、週に何度かはペットボトルのお茶ではなく急酢を使ってお茶を入れてみてはいかがでしょうか。

ウコンに含まれるクルクミン

クルクミンはみなさんご存知のウコンに含まれる黄色い色素です。カレーのスパイス「クミン」としても使われており、日本人にも馴染みが深いポリフェノールです。

ちまたでは二日酔い対策のサプリや栄養ドリンクにウコンが使われていますが、これはクルクミンの肝臓の解毒作用を高める作用、胆汁分泌促進作用、悪酔いの原因になるアセトアルデヒドの代謝を促進する作用などを期待してのことです。

そんなクルクミンにもアミロイドβたんぱくの蓄積を予防する効果があり、さらに神経をアミロイドβたんぱくの毒性から保護してくれる働きがあります。
嘘のような本当の話ですが、シンガポールの高齢者1000人以上を対象に認知機能とカレー食の関係を調査した研究では、カレーを滅多に食べない人達に比べると、月1回以上食べる人達は認知症になるリスクが約半分だったという報告があります(4)。

香港で行われた予備的な研究では、50歳以上で認知機能障害のある人やアルツハイマー病の人にクルクミンを1gまたは4g摂取してもらったところ、血液中のアミロイドβタンパクの量が減少したそうです(5)。体内への吸収率が悪いという指摘もありますが、カレーは私たち日本人がみんな大好きな国民食。あまり気にせずどんどん食べて良いと思います。

ただし、気をつけなければいけない点があります。カレーにつきもののご飯はできるだけ少なめに。ご飯や麺類のような炭水化物は血糖値の急激な上昇につながります。 高血糖は認知症のみならず、老化を促進する因子です。カレーの前にサラダなどを食べて血糖値の上昇を緩やかにする食物繊維を摂り、ゆっくり良く噛んで食べましょう。

更にいえばカレーに使う小麦粉も曲者です。小麦粉も炭水化物ですから、ドロドロした日本風のカレーよりも、サラサラしたタイカレーのようなものがベターです。

サプリで摂ろう! フェルラ酸


フェルラ酸は植物に広く含まれているポリフェノールです。サプリメントとして販売されているものは、米ぬかから抽出されているものがほとんどです。

フェルラ酸も抗酸化作用、抗炎症作用を持ち、アミロイドβたんぱくの産生や神経毒性を抑制します(6)。一般的に、フェルラ酸はガーデンアンゼリカというハーブのエキスなどと合わせて販売されています。

ガーデンアンゼリカは記憶力に関連するアセチルコリンという神経伝達物質の分解酵素を阻害する働きをもち、脳内のアセチルコリンの量を増やします。この働きはドネペジルなどの抗認知症薬の働きと同様のものです。

臨床試験では、アルツハイマー病の人143名にこのフェルラ酸を含むサプリメントを9ヶ月間投与したところ、認知機能低下を抑制したという報告があります(7)。また、妄想、幻覚、怒り、不安などのいわゆる認知症の周辺症状 (BPSD)への効果も期待されており、実際にアルツハイマー病やレビー小体型認知症の患者さんに用いて周辺症状に効果があったことが複数報告されています(8,9)。

フェルラ酸を食品から十分な量を摂取することはなかなか難しいので、物忘れが気になってきたらサプリメントを利用するのが良いでしょう。

今野先生メッセージ

いかがでしょうか。今回はカテキン、クルクミン、フェルラ酸について解説しましたが、認知症予防に効果が期待されているポリフェノールはこれだけではありません。 最近では、レモンバームに含まれているロスマリン酸による認知症予防の臨床試験が始まるというニュースがありました。

植物にはポリフェノール以外にもさまざまな健康に有益な成分が含まれています。一つの食品にこだわらずにできるだけ新鮮なものをおいしく食べて認知症を予防しましょう!

参考文献
1.Rezai-Zadeh K, Shytle D, Sun N, et al. Green tea epigallocatechin-3-gallate (EGCG) modulates amyloid precursor protein cleavage and reduces cerebral amyloidosis in Alzheimer transgenic mice. Journal of Neuroscience. 2005;25(38):8807–8814.
2.Kuriyama S, Hozawa A, Ohmori K, et al. Green tea consumption and cognitive function: a cross-sectional study from the Tsurugaya Project 1. Am. J. Clin. Nutr. 2006;83(2):355–361.
3.Noguchi-Shinohara M, Yuki S, Dohmoto C, et al. Consumption of Green Tea, but Not Black Tea or Coffee, Is Associated with Reduced Risk of Cognitive Decline. PLoS ONE. 2014;9(5):e96013.
4.Ng TP, Chiam PC, Lee T, et al. Curry Consumption and Cognitive Function in the Elderly. Am. J. Epidemiol. 2006;164(9):898–906.
5.Baum L, Lam CWK, Cheung SK-K, et al. Six-month randomized, placebo-controlled, double-blind, pilot clinical trial of curcumin in patients with Alzheimer disease. J Clin Psychopharmacol. 2008;28(1):110–113.
6.Mori T, Koyama N, Guillot-Sestier M-V, et al. Ferulic Acid Is a Nutraceutical β-Secretase Modulator That Improves Behavioral Impairment and Alzheimer-like Pathology in Transgenic Mice. PLoS ONE. 2013;8(2):e55774.
7.中村重信、佐々木健、阿瀬川孝治ほか. Ferulic acid と garden angelica 根抽出物製剤 ANM176TM がアルツハイマー病患者の認知機能に及ぼす影響. Geriat Med. 2008;46:1511–1519.
8.Kimura T, Hayashida H, Murata M, et al. Effect of ferulic acid and Angelica archangelica extract on behavioral and psychological symptoms of dementia in frontotemporal lobar degeneration and dementia with Lewy bodies. Geriatr Gerontol Int. 2011;11(3):309–314.
9.Kanaya K. Effects of ferulic acid and Angelica archangelica extract (Feruguard) in patients with Alzheimer’s disease. Alzheimer’s & Dementia; 2010.


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