映画「八重子のハミング」スペシャルインタビュー①:佐々部清監督

2016年10月21日
   ©Team「八重子のハミング」

4度のがん手術から生還した夫がアルツハイマー病の妻に贈る、31文字のラブレター。

自らがんと闘いアルツハイマーの妻を介護する夫。
迫り来る死の影を見据えつつ、残された日々を共に歩む姿から、闘病、介護、そして夫婦愛を浮き彫りにし、著者である夫が詠んだ短歌とともに綴る。山口県・萩市を舞台に描く、夫婦の純愛と家族の愛情に溢れた物語。

認知症は、人によって症状が異なり、環境によってケアの在り方が変わります。
この映画では、12年という時間軸で認知症と向き合う夫婦を描きます。

認知症ねっとでは「八重子のハミング」公開特別企画として、
制作チームへのインタビューを不定期連載します。
第1回目の今回は、「陽はまた昇る」「半落ち」で知られる佐々部清監督に、
故郷・山口県で撮影したこの最新作について伺いました。

皆さんのご協力を得て「命がけで作られた映画」

―――撮影における印象深いエピソードを教えて下さい。

今回の映画は山口県を中心に、いわゆる映画会社ではないところから、いっぱいお金集めをして作った映画です。

とにかく「県民の方々に参加してもらいたい!」と思っていたんですが、自分たちが考えている以上に沢山の方々に来て頂けました。エキストラの皆さんも、のべにして800人くらいが集まって下さいました。

山口県では萩市・下関市・周南市とロケをしましたが、萩は婦人部隊が、周南は応援団の方たちが食事の手配から準備までしてくれて。下関では打ち上げにたくさんの差し入をいただきました。こちらは小さな予算しかないのに、それを遥かに超えるくらい、凄くいいものを食べさせて貰いましたし、宿泊も通常では考えられないような料金で泊めて頂いたり、劇用車ひとつまで本当に沢山の協力を得て作られた映画です。

ピンポイントの印象というよりは、それがとにかくずっと心に残っていて…。
なので、僕はいろんな所で「命がけでこの映画を作ります」と言い続けてきましたし、それを今度は、きちんと劇場で沢山の人たちに観てもらうこと。 それは県内だけではなくて、全国、そして出来れば海外まで伝えられるような作品に仕上げて、皆さんにお観せすることが自分の恩返しだと思って頑張っております。とにかく山口県の方々の〝熱や想い〟をいっぱい頂いたという、その事が今はとにかく印象に残っています。

   ©Team「八重子のハミング」

認知症は「どこにでも誰にでも起きる問題」

―――八重子のハミングでは「認知症」が重要なテーマのうちの一つですが、佐々部監督ご自身の人生と、映画のストーリーが重なる部分はありましたか?

昨年の夏、自分が一番尊敬する母親を亡くしました。

母はずっと自分が映画を撮り続ける事を喜んでくれていたんですが、亡くなる前の最後の4年間くらいは僕自身を把握できていない、いわゆる認知症が進んでいました。下関に居る僕の妹が、ずっと母の面倒を看てくれていたんですが、僕の事を忘れていく母を見ている時に、自分の中で響くものというか、堪えるものがあって…。この「八重子のハミング」を、やっぱりちゃんと映画にして世に出さないといけない、と思いました。

これからの日本という国は、僕だけでなく、そういう事がどこにでも誰にでも起きる問題だと思います。去年の母の死、それにまつわる3、4年で進んでいった認知症が、自分の「この映画をやるぞ」という気持ちを後押ししてくれたと思います。それが一番この作品と繋がった事だと思います。

   ©Team「八重子のハミング」

「怒りには限界があるけれど、優しさには限界がない」

――――映画の見どころなど、これから「八重子のハミング」を観る方に一言お願いします。

「八重子のハミング」は、認知症や老老介護という、これから日本が抱える大きなテーマを扱っていますが、自分が最終的にこの映画を観て感じて欲しいと思うのは、年齢を重ねての夫婦のあり方や、アルツハイマーの奥さんを介護するという事は、どこか純愛に繋がって戻っていくということだったり…。それからそれを支える「家族の愛」が僕の中では大きくて、夫婦が支え合い、家族が支え合う「愛情」がこの映画の大きなテーマだと思って作っています。

最後の方で、主演の升毅さん演じる石崎誠吾の「怒りには限界があるけれど、優しさには限界がない」というセリフがありますが、そこが見どころかなと。それを全編通して感じて頂ければと思います。

「八重子のハミング」は山口県で10月29日より先行公開。17年に全国で順次公開予定。
次回は主演の升毅さんにお話を伺います。

▼外部リンク
・「八重子のハミング」公式サイト
・公開スケジュール


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