アミロイドβとは〜アルツハイマー型認知症の原因を探る

「アミロイドβ(ベータ)」は脳内で作られる、たんぱく質の一種です。アルツハイマー型認知症の発症に大きく関わっていると考えられており、「アミロイドβたんぱく質」、「アミロイドβペプチド」、「Aβ」などと表されることもあります。

このページでは、アミロイドβが認知症の発症にどのように関わっているのかを解説します。

この記事の目次
  1. アミロイドβとは?
  2. アルツハイマー病の脳にはシミや糸くずがある?
  3. アミロイドβとは?
  4. アミロイドβはなぜ溜まってしまうのか
  5. アミロイドβ仮説とは?
  6. 「老人斑」や「神経原線維変化」はあくまでも結果
  7. アミロイドβと新薬開発

アミロイドβとは?

アミロイドβを説明する前に、まずアルツハイマー型認知症の脳で何が起こっているのか、簡単に説明します。

アルツハイマー病の脳にはシミや糸くずがある?

20世紀の初め、ドイツの医学者アルツハイマー博士は、生前に妄想や記憶障害のあった女性の脳組織を顕微鏡で調べ、脳の萎縮や、脳内のシミのような物(老人斑)、脳神経の中に糸くずのようなもつれ(神経原線維変化)を発見しました。

その後、この特徴を示す病気を老人性の物忘れと分けて「アルツハイマー型認知症」と呼ぶようになったのです。

アミロイドβとは?

アミロイドβは、アルツハイマー型認知症に見られる老人斑の大部分を構成しているたんぱく質で、健康な人の脳にも存在し、通常は脳内のゴミとして短期間で分解され排出されます。

しかし、正常なアミロイドβよりも大きな異常なたんぱく質ができてしまうと、排出されずに蓄積してしまうのです。実は認知症を発症する20年も前から脳に溜まり始めていると言われています。

蓄積したアミロイドβは、脳細胞を死滅させると考えられています。記憶の主体である脳細胞が死滅すれば物忘れが起こると考えれば、イメージしやすいでしょう。また、アミロイドβは血管の壁に沈着することもあり、脳出血の原因となることもあります。

かつてはアミロイドβの蓄積を確認するには、死後の脳組織を顕微鏡で観察するしかありませんでした。しかし、今ではアミロイドPET(アミロイドイメージング)という検査により、画像診断で生きている人の脳内のアミロイドβの蓄積量が分かるようになりました。

アミロイドβはなぜ溜まってしまうのか

体を作る栄養素たんぱく質は、体内でアミノ酸に分解され一旦肝臓に蓄えられます。そこから各臓器に送られ、アミノ酸からそれぞれの臓器に必要なたんぱく質が作られます。

アミロイドβは、脳内で作られたたんぱく質が分解されたもので、40個前後のアミノ酸からできています。分解される時の微妙な切れ目の差で、無害で排出されやすいものと、毒性が強く、たんぱく質同士が互いにくっついて脳に溜まりやすいものに分かれます。

蓄積のメカニズムについては、まだ完全には解明されていませんが、加齢などにより分解や排出がうまくいかなくなると、毒性の強いアミロイドβが溜まり始めると言われています。

最新の研究では、アミロイドβの蓄積をアルツハイマー型認知症の始まりとする「アミロイドβ仮説」に基づき、毒性の強いアミロイドβの産生を抑え、分解や排出を促す方法が研究されています。

アミロイドβ仮説とは?

アルツハイマー型認知症の発症について以下の仮説で、2010年に提唱されました。アルツハイマー型認知症の原因と考えられている仮説の中でも、現在最も有力と言われているものです。

1.たんぱく質を分解する酵素の働きの変化により、蓄積しやすいアミロイドβの割合が増えて脳に溜まり始める。
2.アミロイドβの毒性により、神経細胞やシナプス(神経細胞同士を繋ぐネットワーク)が傷つけられ、糸くずのような神経原線維変化を起こす。
3.傷ついた神経細胞が次々と死んでいくことにより、脳が委縮し認知症を発症する。

現在の新薬開発の主流は、このアミロイドβ仮説に基づいていますが、他にもアリセプトやレミニールなど、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬開発の元となったアセチルコリン仮説やオリゴマー仮説などがあります。アミロイドβ仮説を否定し、別のアプローチをする研究もあります。

「老人斑」や「神経原線維変化」はあくまでも結果

アミロイドβが溜まって老人斑ができ、神経原線維変化が起こると、必ず認知機能が低下してしまうのでしょうか。実はそうではありません。老人斑や神経原線維変化は、アルツハイマー型認知症の人に特徴的な変化として現れますが、アルツハイマー型認知症ではない人にも見られます。

これらの変化は、現段階ではアルツハイマーの「原因」ではなく、あくまでも「結果」なのです。中には老人斑や神経原線維変化がたくさんあっても、症状が出ない人もいます。

例えば、アメリカの修道女シスター・メアリーの話が有名です。死後、脳の病理解剖によってたくさんの老人斑や神経原線維変化が見つかりましたが、101歳で亡くなるまで認知症の症状は一切出ていませんでした。他にも研究に協力した多くの修道女で同様のケースが確認されています。

これらのことから、生き方、脳の使い方に認知症予防の鍵があるのではないかと、現在更なる研究も進められています。

アミロイドβと新薬開発

現在、アミロイドβをターゲットとする研究が進められています。

2007年に開始されたアルツハイマー型認知症研究プロジェクトJ-ADNI(ジェイ・アドニ)では、アミロイドPETにより、生きている人の脳のアミロイドβ蓄積量の変化を長期にわたり追っているところです。

新薬では、開発中の抗アミロイドβ抗体「アデュカヌマブ」が臨床試験の最終段階に入っており、期待が高まっています。

アミロイドβは特にアルツハイマー型認知症にとって大きなキーワードです。ただし、修道女のエピソードなどからも、認知症の予防の鍵はアミロイドβだけではないことが分かっており、脳の使い方を工夫する予防法の研究も、盛んに行われています。


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