アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)の困りごとへの対策

アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)では、認知症ほど生活に大きな支障があるわけではないものの、今までできたことがスムーズにできないといったような困りごとが出てきます。家族のアルツハイマー病によるMCIで困りごとが起きたときの適切な対策・対処法について解説します。

この記事の監修
岩田淳先生
東京大学大学院医学系研究科神経内科学 講師
岩田淳先生
この記事の目次
  1. アルツハイマー病によるMCIでは生活に大きな支障はないが困りごとはある
  2. 困りごと(1)何度も同じ話をしたり確認したりする
  3. 対処法
  4. 困りごと(2)自分で見つけられるものの、物をよく紛失する
  5. 対処法
  6. MCIを理解すれば、小さな工夫で困りごとは対処できる

アルツハイマー病によるMCIでは生活に大きな支障はないが困りごとはある

認知症の前段階であるアルツハイマー病によるMCIにはいくつかの定義がありますが、その中に「日常生活動作は正常」「客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる」というものがあります。つまり、食事や入浴、排せつといった日常の中の基本的な動作を行うには問題がないものの、認知機能の一部が低下している状態がMCIです。

認知機能には様々な定義がありますが、記憶、言語、判断、計算、遂行など、生活に関わる脳の様々な働きを総称したもので、アルツハイマー病によるMCIではこの中のひとつ以上に障害が見られます。とくに記憶の障害が認められます。認知機能が障害されることで、「これまでスムーズにできていたことができなくなる」「これまで理解できていたことが理解できなくなる」などの変化が出てきます。日常生活に支障はないといっても、このような変化によって家族や周囲が対応に困ることも度々起こり得ます。

そのときの対処によっては、本人が傷ついたり感情が高ぶったりしてかえって状況を悪くしてしまう可能性もあります。大切なのは、本人の状態ではなく、困りごとそのものに目を向けて対処することです。今回は、アルツハイマー病によるMCIで起こる様々な困り事について、どのように対処するのが理想なのか、いくつか事例をみてみましょう。

困りごと(1)何度も同じ話をしたり確認したりする

MCIのもっとも代表的な認知機能の低下が物忘れです。単なる老化でも物忘れが見られますが、MCIの物忘れの特徴は経験したことは憶えているが、詳細な内容を忘れてしまうことです。例えば、会う約束したことは憶えているが、待ち合わせ時間をすぐに忘れてしまったり、誰もが知っているようなニュースなどの話題についても、少し踏み込んだ内容になると明確に思い出せない、といったことです。そのため、同じ相手に何度も同じ話をしたり同じ確認をしたりといったことが多くあります。
繰り返し同じ話を聞かされるとうんざりしてしまうこともあり、ついつい対応が雑になってしまうこともあります。しかし、本人は意図的にそうしているわけではありません。むしろ、本人としては初めて話しているつもりですので、それをうるさがったり咎めたりすると、本人は疎外感や孤独感を抱き、強いストレスを感じることになりかねません。

対処法

まずは話を聞いてあげましょう。ただ、毎回真剣に話を聞いていると家族も疲れてしまうので穏やかに受け流すのが理想です。話終えたあとに優しい口調と笑顔で「その話は何度かきいたよ」と伝えることで、本人は自身の状態を認識します。これを繰り返すことで「話した内容」は忘れてしまっても、「自分が同じことを無意識に数回話す状態にある」ということは自覚するようになります。自然と日々の会話で「この話は初めて?」と確認するようになり、同じ話が繰り返されることが少なくなったり、医療機関に相談に行くきっかけにもなります。

困りごと(2)自分で見つけられるものの、物をよく紛失する

MCIになると記憶力が低下するため、物をどこに置いたか忘れて紛失することが多くなります。ただ、自分で見つけることは可能なので、生活上の支障は大きくないように見えます。
しかし、この状態が日常化すると、家族の生活は紛失への対応に手間取る場面が増えたり、お互いの関係がギクシャクすることで双方にとって強いストレスになってしまう場合があります。

対処法

紛失物が多いからと怒ったり責めたりしてはいけません。MCIの方の場合は本人も「失敗した」という自覚を持っています。そんな中で頭ごなしに怒られると自信を喪失し、より周囲への猜疑心が大きくなってしまうことがあります。「紛失がよく起こる」ことに目を向けて対処しましょう。例えば、よく使う物は置き場を決めて、その場所に名札を付けておいたり、家族全員で「使用後は決まった置き場に戻したか?」を日常の中で都度確認しあう習慣をつけるなどの対策が効果的です。
ここで大切なことは、MCIの方だけでなく、家族全員で取り組むということです。「みんなの紛失物を防ぐための家族全員の取組」にすることで、本人の自尊心を傷つけることもなく、また万が一家族に疑いを持っても「いつ使ったの?」「置き場所には戻した?」など、「一緒に探す会話」のきっかけがあるため、言い争いに発展しにくいという特徴もあります。

MCIを理解すれば、小さな工夫で困りごとは対処できる

ここで挙げた事例は困りごとの一部ですが、どちらも対処法はMCIの方を理解し、コミュニケーションや生活習慣でのちょっとした工夫で困りごとを減らせる、という事例です。
実は、MCIや認知症で日常生活に出て来る困りごとの中には、ご家族がMCIの方の視点に立って接し方を工夫するだけで解消できるものも多くあります。
MCIと診断されると、ご本人はとても強い不安を感じると言われています。
身近な方とご本人の双方で理解を深め、困りごとに対処していきましょう。

(「相談e-65.net」との共同掲載)


このページの
上へ戻る