認知症とは?原因・症状・対処法から予防まで

認知症とはどんな病気でしょうか。主な認知症の種類や、認知症の症状など基礎知識について解説します。他に、増加し続ける認知症高齢者の数や、「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」についても解説しています。

この記事の監修
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生

認知症とは?

認知症とは?

脳は、人間の活動をほとんどコントロールしている司令塔です。それがうまく働かなければ、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。

「認知症」とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態のことを指します。

認知症は病名ではなく、まだ病名が決まっていない“症候群”です。つまり医学的には、まだ診断が決められず、原因もはっきりしていない状態のことを表しています。

例えるならば、風邪が風邪症候群であり、喉の痛み、鼻汁、発熱などの同じ症状が見られるのですが、原因がはっきり判断しききれていない状態です。よって治療は、症状を軽くする対症療法が中心で、その原因を取り除く根治療法を行っていくには、より詳細な検査が必要とされます。

「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」

もの忘れには「加齢」によるものと「認知症」が原因となるものがあります。前者は、脳の生理的な老化が原因で起こり、その程度は一部のもの忘れであり、ヒントがあれば思い出すことができます。本人に自覚はありますが、進行性はなく、また日常生活に支障をきたしません。

後者は、脳の神経細胞の急激な破壊による起こり、もの忘れは物事全体がすっぽりと抜け落ち、ヒントを与えても思い出すことができません。本人に自覚はないが、進行性であり、日常生活に支障をきたします。

「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違い

加齢によるもの忘れ 認知症によるもの忘れ
原因 老化 病気
体験した事 一部を忘れる 全てを忘れる
もの忘れの自覚 あり なし
日常生活 支障はない 支障がある

※作成:認知症ねっと編集部

主な認知症の種類

認知症にはいくつかの種類がありますが、主なものとして、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症が挙げられます。

このうち約60%はアルツハイマー型認知症が原因で、約20%は脳血管型認知症によるものとされています。

主な認知症の種類別割合

※出所:厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~平成24年度 総合研究報告書[pdf]
※グラフは研究結果の割合を元に認知症ねっと編集部が作成

認知症の種類によって、症状も変わってくるので、それぞれに合わせた適切な対応やケアが重要になります。

主な認知症の種類と特徴

アルツハイマー型 レビー小体型 脳血管性型
脳の変化 老人斑や神経原線維変化が、海馬を中心に脳の広範囲に出現する。脳の神経細胞が死滅していく レビー小体という特殊なものができることで、神経細胞が死滅してしまう 脳梗塞、脳出血などが原因で、脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死してしまう
画像で分かる脳の変化 海馬を中心に脳の萎縮がみられる はっきりとした脳の萎縮はみられないことが多い 脳が壊死したところが確認できる
特徴的な症状
  • 認知機能障害(もの忘れなど)
  • もの盗られ妄想
  • 徘徊
  • とりつくろい など
  • 認知機能障害(注意力・視覚など)
  • 認知の変動
  • 幻視・妄想
  • 抑うつ
  • パーキンソン症状
  • 睡眠時の異常言動
  • 自律神経症状 など
  • 認知機能障害
  • 手足のしびれ・麻痺
  • 感情のコントロールがうまくいかない など
経過 記憶障害からはじまり広範な障害へ徐々に進行する 調子の良い時と悪い時をくりかえしながら進行する。ときに急速に進行することもある 原因となる疾患によって異なるが、段階的に進行していくことが多い

認知症になるとどんな症状が出るのでしょう?

認知症の症状は、記憶障害を中心とした認知症の方に必ず見られる中核症状と、そこに本人の性格や環境の変化などが加わって起こる周辺症状(行動・心理症状:BPSD)があります。

認知症の中核症状と周辺症状(行動・心理症状:BPSD)

中核症状とは

中核症状とは、脳の神経細胞の破壊によって起こる症状で、代表的な症状は記憶障害です。特に、直前に起きたことも忘れるような症状が顕著です。その一方、古い過去の記憶はよく残りますが、症状の進行とともに、それらも失われることが多いようです。

また、筋道を立てた思考ができなくなる判断力の低下、時間や場所・名前などが分からなくなる見当識障害などがあります。

周辺症状(行動・心理症状:BPSD)とは

周辺症状(行動・心理症状:BPSD)は、脳の障害により生じる精神症状や行動の異常をいいます。具体的には、妄想、抑うつや不安などの精神症状と、徘徊、興奮、攻撃、暴力などの行動の異常が見られます。

周辺症状(行動・心理症状:BPSD)は、脳の障害を背景に、その人の性格や環境、人間関係などが絡み合って起きるものです。そのため、症状は人それぞれ異なり、また接する人や日時によっても大きく変わってきます。

認知症高齢者の数はますます増加

65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人は推計15%で、2012年時点で約462万人に上ることが厚生労働省研究班の調査で明らかになっています。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いると推計されており、65歳以上の4人に1人が認知症とその“予備群”となる計算です。

65歳以上の高齢者における認知症の現状(平成22年時点の推計値)

※出所:「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)による速報値[pdf]
厚生労働省 認知症施策の現状について[pdf]
※2015年以降のMCIの推計値は2012年の推計値を元に認知症の人数の86%として編集部が計算

さらに、2015年1月厚生労働省により、2025年の認知症患者は、現状の約1.5倍となる700万人を超えるとの推計が発表されました。これにMCI患者数を加えると、約1,300万人となり、65歳以上の3人に1人が認知症患者とその予備群といえることになりそうです。

また認知症専門医の間では、MCIの数はもっと多いはずだという声も多く、MCI患者だけで、1,500万人を超えるという見解を持っている医者も少なくはないようです。

軽度認知障害(MCI)とは?

健常者と認知症の中間にあたる、MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)という段階(グレーゾーン)があります。MCIとは、認知機能(記憶力、言語能力、判断力、計算力、遂行力)に多少の問題が生じていることが確認できますが、しかし日常生活に支障がない状態のことです。

MCIの段階で認知機能の低下にいち早く気づき、対策を行うことが認知症予防にはとても大切です。

(2020年5月28日)

おすすめ記事リンク

このページの
上へ戻る