今野先生コラム「食事で認知症予防」第11回:リコード法とその食事
ブレインケアクリニック院長 今野先生コラム「食事で認知症予防」
認知症予防の中でも特に関心が寄せられている「食事」。多くのメディアで様々な食材や栄養素が取り上げられる中、どんなものをどのように摂ったらよいのか、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。
そこで、認知症予防のプログラムを提供するブレインクリニックの院長であり、栄養についても詳しい今野裕之先生が、栄養・食事についてシリーズで解説。皆さんに正しい情報をお伝えします。
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リコード法について
認知症予防に興味のある方は、「リコード法」という治療について聞いたことがあるかもしれません。
リコード法とは、米国のデール・ブレデセン医師により開発された、アルツハイマー病を主なターゲットとしたオーダーメイドの治療システムです。2014年にその原型となるプログラムが論文として発表され、昨年夏にアメリカで書籍が出版されベストセラーになりました。日本では今年2月に翻訳本が発売されています。
私は日本で初めてこのリコード法の認定医になり、実際に自分のクリニックでMCI(軽度認知障害)やアルツハイマー病の方にリコード法の検査・治療を行なっています。実際にリコード法を実施した患者さんの中には、アルツハイマー病と診断された人でも記憶障害などの症状が改善するケースが何人も出てきており、少なからず驚いています。
リコード法の特に画期的なところは、「アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβ(以下、Aβ)が蓄積する背景に着目した」点です。これまではAβがアルツハイマー病の原因物質と考えられていました。したがって、従来のアルツハイマー病の予防や治療法はAβの蓄積予防や除去を主な目標としています。
しかし、最近の様々な研究からは、Aβは炎症や栄養不足、毒性物質の暴露などに対する防御反応として増加するらしいということがわかってきました。Aβが増える原因があるのならば、それを放っておいては根本的な治療になりません。そこでリコード法ではAβが増える原因や認知機能低下につながる要因を探るため、様々な検査を実施し、一人一人にあった生活習慣改善プログラムを作成して提供しています。
中でも食事は最も重要な要素の一つで、リコード法の食事法は「ケトフレックス12/3」と名付けられている特徴的なものです。今回は、ケトフレックス12/3の基本についてご紹介したいと思います。
ケトフレックス12/3とは
「ケトフレックス」のケトとは、脂肪を利用して「ケトン体」というエネルギー源を作れるような状態にするということです。ケトン体はブドウ糖と同様、脳のエネルギー源になる物質です。
アルツハイマー病の脳ではブドウ糖がうまく使えないため慢性的なエネルギー不足に陥っていますが、ケトン体は利用できます。脂肪を分解してケトン体がたくさんできれば、脳のエネルギー不足が解消され、認知機能の改善が期待できます。糖質の摂取が多いとケトン体はできないので、糖質の摂取はできるだけ控えます。
そのかわり、ナッツや卵、青魚などタンパクが豊富な食品や、オリーブオイル・エゴマ油・亜麻仁油などの認知症予防に役立つ脂質でカロリーを補っていきます。ケトン体になりやすい脂質であるMCTオイルやココナッツオイルなどを利用するといったことも有用です。ただし、APOE遺伝子のε4型がある場合は、MCTオイルやココナッツオイルを体内でうまく活用できないので積極的な使用は控えましょう。
「フレックス」とは緩やかな菜食主義を意味します。ケトフレックス12/3では野菜を中心にして食事を組み立てます。食物繊維を摂取することにより血糖値の上がり方が穏やかになり、腸内細菌叢(さいきんそう)が改善されます。また、野菜の持つ様々な栄養素によって、脳の働きを悪くする炎症や、老化を促進する酸化を抑制するなどの効果が期待できます。野菜は葉物野菜を中心に、海藻やキノコなども取り入れてください。
一方、ジャガイモやかぼちゃなどの根菜類は意外と糖質量が多く、気をつける必要があります。ちなみに、ドレッシングやケチャップなどの調味料にも意外と多くの糖質が含まれている場合があります。成分表をよく見て野菜にかけるものにも注意してください。
「12/3」とは、朝ごはんまで12時間空ける、夕飯は就寝3時間前までに終えるというルールのことです。食事をとらない時間を設けることで、その間に細胞内をキレイにする「オートファジー」というメカニズムが働きます。また、空腹になると長寿遺伝子も働きだし、食事がない状態でも生命を維持できるように体のメンテナンスが始まります。
ケトフレックス12/3で注意する点
糖質を制限してケトン体を作れるようにすることは重要ですが、急に厳しく糖質を制限しすぎるとうまくいかないことが多いようです。
特に、もともと食の細い高齢者が糖質制限を厳しくやると体重が減りすぎてしまうことがあります。極端にやせてしまうとエネルギー不足による脳の機能低下につながりますので、肥満の方以外は体重を維持することを心がけてください。少なくとも週に1度は体重を測定して過剰な体重減少が起きていないかチェックすると良いでしょう。糖質の制限は、砂糖の入った甘いお菓子や飲み物は口にしないようにするところから始めましょう。
次に、食べる順番を意識してください。レストランのコース料理のように、まずはおかずから食べると血糖値が急激に上がりにくくなります。さらによく噛んで食べることも重要です。噛むこと自体も脳の刺激になりますし、消化も良くなるので、しっかり噛んで食べてください。
糖質を減らすことに慣れてきたら、夕食のご飯や麺類、いわゆる主食をやめてタンパク質中心のおかずを1〜2品増やしてみてください。最初は主食がないことに違和感を覚えるかもしれませんが、意外と慣れてしまうものです。ご飯や麺類がないと味を薄めるものがないので自然におかずも薄味となり、高血圧の予防にもなって一石二鳥です。
朝と昼の主食の減量は体調と体重をチェックしながら1〜2週間ごとにチャレンジすると良いでしょう。できれば3ヶ月に1回くらいの頻度で血液検査を実施し、問題が起きていないかどうか確認することをお勧めします。
終わりに
今回はリコード法の食事法についてご紹介しましたが、どちらかという>とケトフレックス12/3は「アルツハイマー病のための治療食」という位置付けであり、本来は定期的な検査結果に基づいてアレンジをしていく必要があります。
リコード法を試してみたい方は、まだ日本には少ないのですが当院のようなリコード法を実践する医療機関に相談してください。日本におけるリコード法に関する情報は、今後私が所長を務める一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所のページなどでも発信していきます。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。
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