2017/01/20

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糖尿病未受診者を減らせ!埼玉県に学ぶ、新規受診率倍増法|糖尿病ねっと

糖尿病が重症化する前にどんな対策ができるのか、埼玉県が「糖尿病性腎症重症化プログラム」という新たな取り組みを開始しました。この取り組みは重症化する前に糖尿病を予防することを目的としています。

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このプログラムを先行して実施した埼玉県では、勧奨の実施前後で新規受診者の割合が約1.8倍も増加。さらに、重症化予防の保健指導後にはHbA1c値も改善するという成果が出た。その成功の秘訣は何だったのか、どのようなプログラムを作成したのか等、埼玉県保健医療部保健医療政策課の赤岩稔之氏にさまざまなお話しを伺いました。

まずは現状把握と課題の分析

埼玉県では平成25年の秋から「糖尿病重症化予防対策に取り組むための準備」をスタートさせました。まずは現状把握をするために様々な分析を行い、課題を洗い出しから着手しました。

埼玉県は、総人口約726万人(H27国勢調査・全国5位)、平均年齢43.3歳(H22国勢調査・全国5位)、一人あたりの医療費25万5700円(H23・全国2位)で、これまでは「若くて健康な埼玉県民」といわれていました。しかし、国民の3人に1人が65歳以上となるであろう9年後の2025年には、日本は異次元の高齢化社会に突入します。埼玉県でも75歳以上の人口が倍増して117.7万人となり、医療介護需要の爆発的な増加は必然的です。

埼玉県保健医療部保健医療政策課 赤岩稔之 氏


糖尿病患者の状況について調査したところ、平成13年から平成25年で糖尿病患者数が2.1倍、人工透析患者数は1.7倍に増加していました。気づかぬうちに糖尿病が重症化し、人工透析に移行してしまうという現状は、患者さん自身のQOL(生活・生命の質)、さらには医療費にも大きな影響が出ます。この現状を改善するため、糖尿病の重症化を予防するという課題への取り組み「糖尿病重症化予防対策事業」の始動となったのです。

三者連携でプログラムを作成

これまでの調査から、糖尿病重症化予防のターゲットを保健(健康者および生活習慣病予備軍)と高度医療(重症患者)の合間にいる生活習慣病患者に絞りました。自覚症状が出にくく、重症化しやすい狭間の層の糖尿病患者への対策を行い、人工透析への移行を防止する目的です。

そして平成26年5月、埼玉県医師会・埼玉糖尿病対策推進会議・埼玉県の三者連携により『糖尿病性腎症重症化予防プログラム』を作成しました。具体的には、健診やレセプトデータを活用し、ハイリスク患者(未受診者・治療中断者)をピンポイントで抽出して受診へ導くこと。また、治療中の患者に対しても専門職がマンツーマンで保健指導を行って人工透析への移行を防ぐことを目指したプログラムになります。

「ノウハウ・人材・財源」3つの支援

埼玉県の取り組みの特徴は、糖尿病が重症化するリスクの高い未受診者や治療中断者に受診勧奨をすること、かかりつけ医との連携で丁寧な保健指導を行い、人工透析への移行を予防することです。ですがそれを広めるためには、市町村単位での広域展開が重要で、人材もノウハウも必要になります。

そこで、埼玉県医師会や埼玉糖尿病対策推進会議と共同で糖尿病性腎症重症化予防プログラムを作成しました。さらに、業務委託の方法により、専門職等のマンパワーを国民健康保険財政調整交付金を活用し事業費を支援。ノウハウ、人材、財源の3つの支援をする体制を整えました。それにより、平成26年は19市町の参加でしたが、平成28年には40市町国保に拡大しました。

保健指導は検査値の値が0.3ポイント改善

〔対象者の抽出基準〕
・未受診者および受診中断者の場合
1. 空腹時血糖126mg/dl(随時血糖200 mg/dl)以上又はHbA1c(NGSP)6.5%以上
2. eGFRが基準値(60ml/分/1.73㎡)未満
3. 尿蛋白2+以上あるいはeGFR30ml/分/1.73㎡未満
(※3は重症度が高いと考えられるため、強めの受診勧奨を行う)

〔対象者の抽出基準〕
・通院患者の場合
 糖尿病性腎症の病期が第2期・第3期・第4期と思われる患者を抽出
 かかりつけ医の同意があれば保健指導プログラムへの参加を勧奨


受診勧奨対象者に向けての案内通知は、糖尿病の恐ろしさを表現したイラストを交えたパンフレットと、個別の特定健康検査等の結果通知を同封して送付。保健指導対象者あてには、生活改善プログラムへの参加を促すパンフレットを送付。

平成26・27年度に本事業に参加した市町数は30市町で、受診勧奨実施件数は5,622件、保健指導実施件数は1,195件でした。その結果、「受診勧奨」については、受診勧奨実施前後で新規受診者の割合が約1.8倍に増加。「保健指導」においては参加者のHbA1cの平均値が保健指導前の7.1%から6.8%と0.3ポイント改善し、合併症予防のための目標値の7.0%未満をクリアすることができました。保健指導に不参加だった方のHbA1c平均値は、7.0%から7.1%となり0.1ポイントの悪化という結果になりました。

保健指導参加者とかかりつけ医の声

保健指導に参加していただいた方からは、「検査数値もよくなり、生活習慣の改善が大切だとわかった」「糖尿病が重症化する恐れがあるとは思いもよらなかった」と好評の声をいただきました。体重や血圧の測定記録も8割強の方がほぼ毎日できると回答されました。

また、かかりつけ医へも「効果はありましたか?」というアンケートを行いましたが、6割以上が好意的な意見でした。特に管理栄養士などがいない医院の医師からは「医療以外の食事や運動、生活面での改善が重要という認識を持ってもらえた」と前向きな声を多くいただきました。

積極的に取り組む自治体にインセンティブ

平成28年7月に開催された日本健康会議2016において、埼玉県のこの取組が好事例として紹介されました。厚生労働省は、糖尿病性腎症重症化予防プログラムに積極的に取り組む自治体にインセンティブを導入すると発表。取り組みを頑張れば頑張るほど補助金がはいってくるというシステムです。埼玉県としても63の市町村すべてで取り組みを強力に展開できるようひきつづき支援していきたいと考えています。
人工透析の年間医療費は1人につき約500万円です。透析導入していない患者の年間医療費50万円の10倍にもなります。医療保険財政の問題ももちろんですが、患者さん自身のQOLにも大きな影響が出てしまいます。この取り組みで医療費の適正化や県民のQOLの向上が期待できるのです。そういった事情も考慮し、積極的に参加してくれる自治体が増えていけばと考えています。

フォローアップが課題

今回の埼玉県内市町村国保共同による糖尿病重症化予防の取り組みを振り返り、今後の課題として重要視していることは、保健指導実施後のフォローアップ(継続支援)です。実は、保健指導を終えて数ヶ月後にリバウンドする人が結構いらっしゃるのです。やはり継続することが大切だなと痛感させられました。