家族のメッセージビデオが、せん妄による過活動に及ぼす効果を調べた研究

2018年6月14日

神経認知障害には、認知症、軽度認知障害とともに「せん妄」が含まれます。せん妄は、一過的に発症する軽度の意識障害で、高齢者ほど発症しやすい傾向があります。また、認知症があると「せん妄」を起こしやすくなります。せん妄を発症すると、落ち着きがなくなって徘徊をしたり、怒りっぽくなって暴言を吐いたりするなどして、生活にも大きな支障をきたします。せん妄の治療では薬による治療が行われますが、時に症状の悪化を招くなどの副作用もあるため、薬に頼らない方法の研究が進んでいます。
今回ご紹介するのは、ご家族の映ったビデオによる、せん妄の症状の軽減についての研究です。

この記事の執筆
認知症ねっとACADEMICS
認知症ねっと編集部
認知症ねっとACADEMICS
この記事の目次
  1. せん妄で起こる徘徊や暴言
  2. 患者さんや介護者の負担の軽減にもつながる可能性

せん妄で起こる徘徊や暴言

せん妄は高齢者ほど発症しやすい神経認知障害の一つです。比較的急激に発症して、数日から数週間で回復することからも、認知症とは区別されます。しかし、認知症の患者さんは「せん妄」を発症しやすい傾向があり、急な症状の変化には注意が必要です。せん妄の症状としては、落ち着きなく動き回る(過活動)、興奮して怒りっぽくなる、幻覚、不眠などが特徴的です。

せん妄の治療では薬物が用いられるとともに、薬に頼らない治療法も模索されています。気に入った音楽や、馴染んだ物に触れることなどが、せん妄の症状の予防、改善につながるのではないかと期待されています。さらに、「家族」と触れ合うことは、患者さんに落ち着きや親しみの感情を与える効果があることから、症状の軽減につながると考えられます。しかし、専門施設などに入院している場合、四六時中ご家族と触れ合うことはできないため、それに代わる方法が検討されています。その一つがビデオの利用です。家族のメッセージが入ったビデオや音声でも、過活動の症状を示している患者さんを落ち着かせる効果があるのではないかと期待されています。

この度、アメリカの研究グループが行ったのは、過活動の患者さんにファミリービデオがどれくらいの効果があるかを調べた研究です。実験に参加したのは、せん妄を発症して入院している平均年齢79歳の111人です。被験者は3つのグループに分けられ、一つ目のグループにはご家族のメッセージが入った約1分間のビデオを、2つ目のグループには自然の風景が映ったビデオを過活動の症状が表れている最中に見せました。3つ目のグループには、どんなビデオも見せませんでした。ビデオを見せる以外は、薬物療法などは通常の通り行いました。

解析の結果、落ち着きがなくなって動き回っている最中にビデオを見せたグループでは、有意に過活動が治まることがわかりました。とくにご家族のメッセージビデオを見せたグループのほうが、その効果が大きいことがわかりました。しかし、ビデオを見せてから30分後の活動の程度は、どのグループでも同じくらいになることがわかりました。以上のことより、せん妄に基づく過活動の最中にご家族の映ったメッセージビデオを見せることは、過活動を有意に抑える効果があることが分かりました。

患者さんや介護者の負担の軽減にもつながる可能性

今回ご紹介した方法は薬物に頼らない方法であり、ビデオを見せたことで気分が悪くなったなどの副作用が表れることもありませんでした。メッセージビデオを見せることで、患者さんを効果的に落ち着かせる効果が見られたことから、今回の研究に参加された患者さんのご家族からは、この方法についてより深く知りたい、と要望があったそうです。せん妄によって起こる過活動があると、夜中の徘徊や暴言など、患者さんご自身だけではなく介護する方にも大きな負担が生じます。今回ご紹介したような方法が、患者さんや周りの方の支えになることを期待します。

▼ご紹介した論文
Using simulated family presence to decrease agitation in older hospitalized delirious patients: A randomized controlled trial.
Waszynski CM et al., Int J Nurs Stud. 2018 Jan;77:154-161.


このページの
上へ戻る