高齢者の有酸素運動が脳に良い影響を与える-SMART研究から-

2018年1月16日

健康を保つために、日々の生活にぜひ取り入れたいのが「運動」です。定期的な運動は骨や筋肉など体の骨格を鍛えるだけでなく、脳にも良い影響を与えるといわれています。

今回は、「有酸素運動」が脳の代謝に与える影響を調べた論文をご紹介します。

この記事の執筆
認知症ねっと
認知症ねっと編集部
認知症ねっと
この記事の目次
  1. 有酸素運動は脳にどのように影響するのか?
  2. 「海馬」の容積に変化なし。しかし、代謝には変化が
  3. 運動は無理のない範囲で、まずは続けることから

有酸素運動は脳にどのように影響するのか?

「有酸素運動」は、体内に常に酸素を取り込みながら行う運動です。有酸素運動を行うと脳にも酸素が巡りやすくなるため、脳の働きにも良い影響があると考えられます。2017年にドイツのグループが発表した「SMART研究(Sport and Metabolism in Older Persons, an MRT study)」の論文は、有酸素運動が脳の代謝にもたらす影響を調べたものです。

今回の研究で行われた実験では、65歳から80歳までの健康な60人をランダムに2つのグループに分け、1つのグループは「有酸素運動」を取り入れたプログラムを行いました。プログラムは週に3回、エアロバイクを使った30分間の有酸素運動を3カ月間行うというものです。もう片方のグループは運動を行わない、比較のための対照群です。

プログラム期間に入る前とプログラム終了後に、認知機能テストや血液検査を行い、結果を比較しました。さらに脳の代謝の様子を「核磁気共鳴スペクトルスコピー」という方法で調べました。この方法を使うと、脳に存在する特徴的な物質の割合を、頭皮の上から測定することができます。たとえば「N-アセチルアスパラギン酸(NAA)」は哺乳類の脳に多く観察されるアミノ酸の一種で、神経細胞の指標となります。脳腫瘍などの疾患では、NAAの低下が観察されます。また「コリン」は細胞膜に含まれる物質で、細胞膜の分解や合成の指標となります。

「海馬」の容積に変化なし。しかし、代謝には変化が

実験結果を解析したところ、認知機能テストの成績は、プログラム期間の前後でどちらのグループにも大きな変化はありませんでした。また、記憶をつかさどる脳の「海馬」の容積にも、変化は見られませんでした。しかし、脳の物質の代謝には、両グループ間で違いが観察されました。その一つが「コリン」です。「コリン」の割合は対照群では増えていましたが、エアロバイクで有酸素運動を行ったグループでは変化しませんでした。「コリン」は神経細胞の分解にともなって増えると考えられており、たとえばアルツハイマー型認知症では「コリン」の割合が増加することが知られています。

以上の結果から、有酸素運動を高齢者が3カ月間行うと、神経細胞の分解を効果的に抑えることができる可能性が示されました。

運動は無理のない範囲で、まずは続けることから

今回ご紹介した論文では、有酸素運動による脳の代謝への影響は観察されましたが、認知機能の改善や、海馬の構造変化などは確認されていません。これは今回行われた実験期間にも関係すると考えられます。以前に行われた研究によると、有酸素運動を1年にわたって行ったところ、高齢者の認知機能が改善したと報告されています。今回は3カ月という短期間であり、認知機能テストなどに変化が現れるまでには至らなかった可能性があります。

運動が脳に影響をもたらすメカニズムの解明には時間がかかるものの、運動が脳にいいことは誰もが感じていることでしょう。まずは週に1度でも、ウォーキングやヨガなどご自分の生活スタイルに合う有酸素運動を、無理のない範囲で始めてみてはいかがでしょうか。

▼ご紹介した論文
Effects of aerobic exercise on brain metabolism and grey matter volume in older adults: results of the randomised controlled SMART trial
Matura S. et al., Translational Psychiatry. Published online July 18 2017 doi:10.1038/tp.2017.135

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