患者と家族の心を豊かにする「臨床美術」とは~ADI国際会議講演より

2017年8月1日


今年4月に行われたADI国際会議において、認知症における臨床美術の効果についてのシンポジウムが行われ注目を浴びました。日本で研究・開発された臨床美術は、患者だけでなく介護する家族のケアにも役立っています。臨床美術の内容や効果について、実際の講演の内容も交えつつ紹介します。


この記事の執筆
認知症ねっと
認知症ねっと編集部
認知症ねっと
この記事の目次
  1. 日本発祥、脳の活性化に役立つ「臨床美術」
  2. 臨床美術の手法の特徴
  3. 脳の活性化だけでなく、自信・意欲向上効果も
  4. 臨床美術の可能性と役割

2017年4月のADI国際会議(国際アルツハイマー病協会国際会議)では「臨床美術」に関するシンポジウムが行われ、専門家や当事者家族などの4名が講演しました。 臨床美術は、現時点ではあまり周知されていませんが、認知症の症状改善に役立つとされ本格的な取り組みが進められています。

日本発祥、脳の活性化に役立つ「臨床美術」

臨床美術とは、絵画やオブジェの創作など、プログラムに沿った創作活動を楽しみながら行うことで脳を活性化するというもの。認知症の症状改善を目的に日本で開発され、21年ほど前に、医師や美術家などがチームとなり実践研究がスタートしました。美術作品を創作することによって脳にさまざまな刺激が与えられ、脳によい影響を与えると考えられています。

ADI国際会議の会場で行われたアートプログラム ミニ体験会

臨床美術の手法の特徴

認知症のリハビリにも「芸術療法」というものがあり、絵画など手を動かすことが脳によい影響を与えることは広く知られています。しかし、ただ単に絵を描けば脳が活性するというわけではありません。

ADI国際会議の演者のひとりである蜂谷和郎氏は、「臨床美術の特徴として絵を描いたことがない人でも描けてしまうアートプログラムを持っている」と話します。臨床美術では、五感を刺激し、描く対象物を「感じる」ことが大きな特徴。具体的に行われている手法を蜂谷氏は次のように解説します。

「例えば、リンゴを描く場合、リンゴを見て観察するだけでなく、リンゴを持つ、においを嗅ぐ、叩いて音を聞く、食べる、などして五感でリンゴを感じるようにします。また、画面の中心に点を打ち、そこから徐々に塗り広げるようにして描いていきます。この描き方は彫刻家がデッサンをするときの捉え方を取り入れています。点はだいたい誰でも打てます。美術に対して強いコンプレックスのある方や、絵を描いたことがない方でも絵が描けてしまうのです。」

上手い、下手ということから解放されるというアートプログラムにより、より自由な自己表現が可能。絵画の経験がない方でも踏み出しやすくなっています。

脳の活性化だけでなく、自信・意欲向上効果も

臨床美術は、五感からの刺激による脳の活性化だけでなく、患者の意欲や自信の向上、潜在能力を引き出すといったことにも効果が期待できるといいます。

ADI国際会議では、実際に臨床美術の現場にあたる臨床美術士のフルイエミコ氏が、臨床美術の講座の様子について紹介しています。

「臨床美術士は“教える”という関係ではなく、あくまで制作に寄り添うというスタンスで関わっていきます。患者のみなさんは非常に楽しそうに笑顔もこぼれながら制作をしていかれます。来た時にはちょっとその日は気分が良くないという患者さんもいらっしゃいますが、制作が終って鑑賞会の時になると非常に調子が上がっているということもよくあります。セッションの最後には必ず鑑賞会を行います。鑑賞会では一人ひとりの作品を認めて、良いところを褒めていきます。表現を受け入れてもらうことで、自分を受け入れてもらっているという安心感に繋がり、自信にも繋がっていきます」

臨床美術の現場には介護する家族も共に参加。患者が自分を表現することで元気を取り戻した姿は、家族にも穏やかな気持ちを与えます。家に患者の作品を飾るなどで家庭での会話が広がることもあるでしょう。このようなコミュニケーションも、脳の活性化に役立ちます。

全国の認知症ケア講座から寄せられた作品も公開されました

臨床美術の可能性と役割

このほか、今回のADI国際会議では、京都府立医科大学神経内科教授、水野敏樹先生による認知症疾患後の画家の画風の解説や、介護家族代表岩本みどりさんによる臨床美術に参加しての感想の講演がありました。

患者の症状改善だけでなく、感性を豊かにし人生に対する前向きな気持ちを与える効果も持つ臨床美術。21年前に始まった当初は画家や彫刻家の方も試行錯誤していた臨床美術ですが、現在700近くものプログラムがあります。高齢化が進み認知症への関心がさらに高まる中、今後さらに広がっていくと考えられます。


このページの
上へ戻る