認知症、でも大丈夫【第146回老年学・老年医学公開講座】

2017年7月12日

東京都健康長寿医療センターは、定期的に「老年学・老年医学公開講座」を開催しています。専門家が毎回様々なテーマをわかりやすく解説。自身の健康に関心の高い来場者が多く訪れます。

「認知症、でも大丈夫」と題された146回目の講座では、3人のドクターが講演。その内容を簡単にご紹介します。

この記事の執筆
認知症ねっと
認知症ねっと編集部
認知症ねっと
この記事の目次
  1. 脳卒中の予防で認知症も予防!~金丸和富先生
  2. 血管の健康を管理すれば認知症を予防できる?
  3. 具体的な予防法とは?
  4. 認知症を治す薬はできるのか?~石井賢二先生
  5. 認知症の原因をおさらい
  6. 発症を5年遅らせれば患者数が半数に
  7. 認知症克服のための研究開発
  8. 認知症になっても、幸せに暮らす~粟田主一先生
  9. 認知症を患うということ~Aさんの場合
  10. 「認知症高齢者等にやさしい地域」とは?
  11. 編集部より

脳卒中の予防で認知症も予防!~金丸和富先生

脳卒中科の部長である金丸先生は、認知症を起こす原因やその症状について解説。そして認知症を起こすリスク要因である「生活習慣」の管理が、予防・進行抑制に繋がることに言及し、具体的な対策を教えてくださいました。

血管の健康を管理すれば認知症を予防できる?

「脳は重さが体重の2.5%しかないのですが、血液量は全身の20%。大量の血液が循環している場所なのです。そこで、血管の変化を予防していけば、認知症の予防になるのではないかという観点から報告が出されています」

血管性認知症であれば、脳卒中の予防が直接認知症予防に直結します。しかしそれだけでなく、アルツハイマー型認知症でも、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の治療で進行を抑制できた研究結果があるのです。生活習慣の管理が認知症予防に繋がることが明らかになってきました。

具体的な予防法とは?

血圧や血糖、コレステロールの管理、動脈硬化を防ぐことなど、ひとくちに「生活習慣を管理」と言っても気をつけるべきことは多岐に亘りそうです。では、具体的にどんなことに取り組めばよいのでしょうか?

先生の答えは「食事と運動」でした。
「食事は、バランスよく野菜などを摂取することが大切。栄養素で言うとDHAやEPAといった必須脂肪酸や、活性酸素を抑えるビタミンA、B、C、D、、ポリフェノール、緑茶のカテキンも非常に良いと言われていますね。その他カルシウムや食物繊維の摂取も大事です。また、腸内細菌の変化で脳が変わるという報告があるので、腸内環境を整えることも必要です」。

そして運動については、軽い有酸素運動を長時間継続することが効果的なのだとか。
ウォーキングの場合は単に歩くだけでなく、話しながらとか、計算しながら。いわゆる”デュアルタスク”といって頭を使いながら行うのがいいですね。脳にはすごい数の神経経路があって、様々な刺激に対して回路を変更し、それに対応する能力があるんです。それをできるだけ活用するような取り組みを行いましょう」

その他、回想法やリズム体操などを行った結果、前頭葉の機能が改善した事例も紹介。未だ完治が難しい認知症ですが、日々の暮らしの中で取り組める具体的な対策とその効果が示された有意義なお話でした。

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認知症を治す薬はできるのか?~石井賢二先生

石井先生の専門は画像診断。現在、認知症の画像診断には劇的な進歩があり、特にアルツハイマー型はかなり早期の正確な診断や発症リスクを調べることができるそうです。それに基づき薬の開発も進んでいるとのことで、この日は薬についてお話くださいました。

認知症の原因をおさらい

認知症の中でも多くを占めるアルツハイマー型は、アミロイドβとタウと呼ばれるタンパク質のゴミが脳の中に溜まることが原因ということがわかっています。アミロイドβもタウも実はもともと脳の正常なタンパク質からできていますが、年齢を経るごとに脳のゴミ掃除、”クリアランス”の機能が少しずつ落ちているためにゴミが溜まっていくのだそうです。

発症を5年遅らせれば患者数が半数に

現在認知症には4つの薬が使われており、症状の改善に効果を発揮していますが、残念ながら進行そのものを止めることはできません。そんな中、病気の進行そのものを抑える薬(疾患修飾薬)の開発が進められています。

脳にゴミが溜まりはじめてから病気として発症するまでには20年ほどかかるといわれています。先生によると、アミロイドイメージングという検査では、まだ症状は出ていないものの脳にアミロイドβが溜まっている人を見つけることができるそうです。そのような早期の段階で進行を抑えれば、認知症の発症数も抑えられると石井先生。年代ごとの認知症の割合をみると、年齢が5歳上がると患者数は大体倍に増えています。これを逆に考えると、認知症の発症を5年遅らせることができれば、患者さんの数が半分になるのです。

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認知症克服のための研究開発

「高血圧や高脂血症を指摘されると、心筋梗塞や脳梗塞などの病気を防ぐためにお薬を飲みますね。それと同じように、アルツハイマー病についても、リスクがあっても治療すれば発症しないというような考え方で予防ができるようになれば理想的です」

講演では、最終段階の治験まで進んでいる疾患修飾薬が紹介されました。薬の開発のためにもリスクのある人の治験参加が重要とし、私たちも予防に関心を持って臨むことが大切と石井先生は説いています。

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認知症になっても、幸せに暮らす~粟田主一先生

臨床のみならず、認知症の支援体制構築のため行政とも連携して活動する粟田先生は、国家戦略・新オレンジプランでも掲げられている「認知症高齢者等にやさしい地域」とは何かを考察。わかりやすい説明で会場の共感を呼びました。

認知症を患うということ~Aさんの場合

認知症を患うというのは一体どんなものなのでしょうか。84歳のAさんを例に挙げ、その世界観をわかりやすく私たちに伝えます。

夫と死別し、仲良しの姉も亡くしたAさんは物忘れも自覚。人との約束を忘れたり、話についていけなくなることから自信を失い人付き合いも減ったといいます。

「記憶力の低下は、社会生活をしていく上では結構大変なこと。整理整頓ができなくなったり家事も苦手になったり、生活の中で失敗が増えていきます。薬の飲み忘れによる身体の不調や収入面で生活が苦しくなったりもします。先々のことを考えて夜もよく眠れず気持ちも沈みがちになったりするのです」

そんな中、財布が見つからずに「隣のBさんが盗んだのかしら」と考えたりしてしまう体験を「物盗られ妄想」と言ってしまうのは申し訳ないのではないかと話す粟田先生。
「夫を失い、仲良しだった姉を失い、更に物忘れが出てきて日々失敗が重なっています。自信を失い、人付きを失い、健康も失い、年を経るごとに財産も少しずつ失っている。こういった”喪失体験の連続”の中で”財布を見失う”という体験をしているのです」

このような状況で、怒りや不安から「誰かのせいじゃないか」と考えてしまったりする心境は、決して特別なことではありません。

「認知症高齢者等にやさしい地域」とは?

場内の認知症当事者に対する理解を深めた上で考察された「認知症高齢者等にやさしい地域」。

「こうした状況が重なり複雑化する前に、その人が必要とする支援を総合的に利用し、調整する仕組みがあれば、人生を幸せに過ごす地域社会が作れるのではないかという考え方があります」

そのために必要なこととして、粟田先生は以下を挙げています。
1:その人が暮らす地域の中で、必要としている支援を提供する「地域包括ケア」の考え方
2:認知症について正しい知識を持ち、本人の視点に立って生活の支援を考えてくれる「コーディネーター」
3:認知症カフェやレクリエーションなど、本人が参加できる”場所づくり”を含め、一緒に人生を歩む人に出会える「社会ネットワークづくり」

「本人、家族、地域の人々がそれぞれ考え、支えながら、認知症と共に暮らせる地域を作り出し、居場所を作ることで”認知症になっても幸せに暮らす”ことができるのではないでしょうか」

認知症になっても幸せに暮らすためには、当事者はもちろん、ドクターや各専門職、介護者の連携だけでなく、地域の人々の協力と仕組みづくりが必要なのです。

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編集部より

今回の講座は練馬区で行われましたが、こちらの「老年学・老年医学公開講座」は、東京都民に向け、毎回場所を変えて開催されています。 老いと向き合う様々なテーマで定期的に行われていますので、お近くで開催の際は是非参加されてはいかがでしょうか。

▼外部リンク
東京都健康長寿医療センター研究所「老年学・老年医学公開講座」


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