【シリーズ改正道路交通法:1】高齢者・認知症患者の運転の実態

2017年1月25日

昨年12月の日本認知症学会学術集会では、平成29年度から施行される改正道路交通法にまつわる講演も複数行われました。

認知症ねっとは、大阪大学の池田学教授、愛知県認知症疾患医療センター/八千代病院の川畑信也教授の講演から、読者の皆様に関連の深いテーマをピックアップ。【シリーズ改正道路交通法】として連載でお届けします。

第1回目の今回は、近年問題となっている高齢者・認知症患者による運転事故の増加に焦点を当て、実際にどのような事故が起きており、どのような点が問題になっているのか、高齢者・認知症患者の運転の実態を解説します。

高齢者の運転死亡事故の割合が10年で2倍に

ニュース番組で毎日のように報道される交通事故。危険運転による交通事故死も後を絶たないが、実は全体的な交通死亡事故の件数は年々減少している。80年代半ばには1万人を超えていた年間の交通事故死亡者数が、平成26年では4,113人、平成27年では4,117人。半数以上の減少が見られる。これは、シートベルトの着用の徹底、飲酒運転の厳罰化が要因と考えられる。

そんな中において増加しているのが、全体に対する高齢ドライバーによる運転死亡事故の割合だ。特に75歳以上の高齢者による運転死亡事故の割合は、この10年でほぼ2倍に増加している。近年話題となっている高速道路の逆走事故も、7割は65歳以上の高齢ドライバーによるものだ。

以下のグラフは東京都内における交通事故件数の推移だが、都内だけでも高齢ドライバーが関与する交通事故の割合は、年々高くなり、平成27年は総件数の21.5パーセントを占め、10年前の約1.9倍となっている。

高齢ドライバーが関与した交通事故発生状況[東京都](平成27年中)

出典:警視庁交通総務課統計

認知症患者による危険運転の実態

高齢になると、視野が狭まる、運転中の反応動作が鈍る、長年の運転による過信などから事故を起こしやすいとされている。さらに高齢者の運転事故の中には、ドライバーが認知症を患っているケースもあり、危険運転として大きな社会問題となっている。

認知症のドライバーが運転すると具体的にどのような事故につながりやすいのか。

認知症の中でももっとも割合の多いアルツハイマー型認知症の場合、記憶力や見当識に障害が出るため、自分がどのように今走っている道まで来たかがわからなくなり、道に迷って高速道路に入り込んでしまう、パニックになって逆走したり歩道に侵入したりしてしまうなどの事故が起こりうる。 また、空間の認知力も低下するため、幅寄せや駐車がうまくできず接触事故を起こしやすい。

アルツハイマー型認知症に次いで多い脳血管性認知症では、運転中にボーッとしてしまいブレーキやハンドルの操作が遅れるなどが考えられる。 レビー小体型認知症においては、物がゆがんで見えたり、小さく見えることもあり、対物などの事故につながる可能性も高いと言えるだろう。

前述した高速道路逆走事故でも、当事者であるドライバーの12%に認知症の疑いが見られた。 また、近年も、認知症が疑われる高齢ドライバーの運転する軽トラックが小学生の列に突っ込み、小学生が亡くなる事故が起きている。

認知症患者における運転能力低下の要因

認知症患者の危険運転については前述のとおりだが、その要因のひとつについて、具体的な説明が学会の講演にて行われた。 愛知県公安委員会の指定医として運転免許の臨時適性検査にも関る川畑信也教授は、「注意」の観点から運転について考察。認知心理学的に「注意」は4つに分かれることを解説した上で、認知症を患うと低下する「注意」について説明した。

焦点的注意

一定の事柄に向ける注意のこと。「車の運転に集中する」がこれにあたる。

持続的注意

ひとつの状態を持続する。編み物やゲームに何時間も費やせるのはこの持続的注意が働いているため。長時間高速道路を運転する能力がこれにあたる。

選択的注意

対象を選択してそこに注意を向けること。たとえば運転中に後部座席で子供が騒いでいたり、ラジオの音量を気にせずに運転できるのは選択的注意によるもの。

分割的注意

2つ以上の事柄に注意を分散すること。運転中は前方の信号を確認しながらサイドミラーで後ろを確認したり、判断してブレーキを踏んだりといったことを同時に行う。これを分割的注意という。

認知症になっても「焦点的注意」「持続的注意」は保たれるそうで、何時間でも編み物を続けたり、同じことを何度も聞くというのはこのためだという。

ところが、「選択的注意」「分割的注意」については、認知症の初期から低下する。認知症患者は注意をうまく選択したり分割したりが難しくなり、情報が上手く処理できないことが、危険運転の要因として挙げられるそうだ。

認知症患者の運転中止の困難も問題

高齢者・認知症患者の運転の危険性が大きく取り上げられる中でも運転を続ける高齢者は多く、75歳以上の運転免許保有者数は増加している。高齢ドライバーが増えれば、その分に比例して認知症ドライバーも増加すると考えられるだろう。

「認知症患者に運転を止めさせるのは難しい」と言うのは池田教授。教授がまとめた自身の臨床結果によると、診察の場で認知症患者本人やその家族に、運転の危険性を伝え中止を説いてきたものの、実際に運転を中止した患者はごく一部。それも、医師のアドバイスに従った結果ではなかったという。

たとえば、患者Aは、対物の事故を2回、自損事故を数回、そして運転中に2回迷子になるという経験の末に、やっと運転中止に至った。このように、池田教授がまとめたデータの中で運転を中止した患者は、何度も運転事故を繰り返した人ばかりで、まだ事故を起こしていない人は運転を続行しているのが現状だ。

これは、データをとっていた当時は今ほど高齢者・認知症患者の運転事故が大きく問題化されていなかったことや、場所が郊外で、自動車が高齢者にとって重要な足になっていたことも影響していると考えられる。交通機関の乏しい地域では特に運転の中止の説得は難しいと言えるだろう。

一方で、一般の高齢者で「認知症患者の運転はすぐに中止すべき」と考える人は90%以上というデータもある。誰もが、我が身のことでなければ認知症患者の運転を危険視しているのだ。

改正道路交通法施行で危機意識向上に期待

高齢ドライバーによる事故対策を強化すべく、道路交通法も情勢に合わせて改正されている。75歳以上の免許更新者の講習予備検査の義務化(平成21年)、運転に支障をきたす疾患の虚偽申告への罰則新設(平成26年)などがその例だ。

そして今回、平成29年に施行される改正道路交通法では、一定の違反があった場合の臨時認知機能検査の実施、認知症の恐れがある場合の臨時適性検査もしくは医師の診断書の提出の義務、高齢者講習の合理化・高度化といった高齢者運転対策が盛り込まれる。

前述のように、高齢者の多くが「認知症での運転は危険」という認識がある一方で、実際に認知症患者で運転を中止するのはごく一部というのが実態だ。 この改正道路交通法の施行により、高齢ドライバーによる事故の減少とともに、高齢者の運転に対する危機意識の向上も期待される。

▼関連記事
【シリーズ改正道路交通法:2】現行制度と改正道路交通法のポイント 【シリーズ改正道路交通法:3】自主返納の促進と返納後の支援はこちら


こちらのニュースもどうぞ

認知症最新ニュース アクセスランキング

  1. 1認知症患者は2025年に700万人を突破。65歳以上の5人に1人
  2. 2認知機能の維持に希望の光!注目される「コリン」の効果とは
  3. 3ユマニチュードに関するアンケート調査を実施
  4. 4【樋口直美さんインタビュー】 レビー小体型認知症は認知症というよ…
  5. 5嗅覚を刺激して認知症予防!「においと認知症」の最新研究成果[PR…
  6. 6認知症で注目されているコリンと コレステロールの意外な関係?!
  7. 7肥満と認知機能低下に関係あり?
  8. 8認知症対策の国家戦略『新オレンジプラン』策定
  9. 9認知症等による行方不明者3年連続で1万人越え
  10. 10「ブレインHQ」の魅力を探る! 利用者向け交流会
このページの
上へ戻る