認知症最新ニュース

BPSDの予防に不可欠な非薬物療法【第35回日本認知症学会学術集会】

2017年1月30日

BPSDは環境や心理状態によって患者ごとに異なります。治療に関しても、かつては薬物治療中心でしたが、現在は様々な非薬物療法が行われています。

昨年行われた日本認知症学会学術集会において、上智大学総合人間科学部教授・黒川由紀子氏は、臨床心理士の立場からBPSDの非薬物療法についての講演を行いました。

生活全般を様々な方面から支えることが重要
「BPSDの予防には、非薬物療法を認知症の初期に開始し、継続することが重要です。非薬物療法にはいろいろな手法がありますが、大事なことは生活全般を様々な方面から支えること。臨床心理士など専門職が携わる心理療法や心理支援のほか、患者の家族や周囲の人間、訓練を受けたボランティアなど、時にはインフォーマルな力を借りて継続することが大切」と黒川氏は語ります。

BPSDは周囲の人の対応如何で症状が左右されると言われていますので、家族や介護現場での理解を高めることが重要となります。認知症に対する正しい知識を持ち、理解した上で適切な対応をすることと、ケースに応じた環境調整が鍵となるでしょう。

学術集会では、黒川氏の取り組みから3つの事例が発表されました。



百歳回想法

回想法とは、過去の回想により高齢者の脳が刺激され、精神状態を安定させる心理的アプローチ。1960年代にアメリカの精神科医、ロバート・バトラー氏が提唱しました。人生の振り返りにより生じる内的過程に注目することで「高齢者の誠実さ、落ち着き、知恵の発展に寄与する」とバトラーは述べています。

黒川氏は平均年齢100歳の入院患者5名に定期的に回想法を行った事例を紹介。 精神科ドクターのほか専門職によるチームが立会い、話が冗長になった場合の軌道修正や、難聴を考慮したフォローなどを交えテーマを提示してセッションを行いました。

”ふるさと”をテーマにしたセッションでは、たまたま同郷であることが発覚した患者同士の話が盛り上がり、話題が広がっていくなど、落ち着きや脳の活性化に繋がる様子が伺えます。

「こうした会がなければ出会えなかった人に患者さん同士が出会い、様々な体験がシェアされました」

いちばん未来のアイデアブック

続いて紹介されたのは、人口に対して約30%の高齢者がいる日本で、高齢者9人×28時間のセッションを持ち、日々の生活における思いや言葉を問題意識を持って聴いていくというもの。不自由から様々なアイデアを出すという試みが紹介されました。こちらのセッションは『いちばん未来のアイデアブック』として、書籍にもなっています。
アイデアの一部をご紹介します。

●「物忘れは人に言えない。軽い物忘れなら笑いながら話せたけれど、深刻な場合、口に出すと『病院に行け』『薬飲め』『施設に入れ』と言われそうで…」
→アイデア『物忘れ発見器』

●「知らない人からヘンな電話がかかってくる」
→アイデア『自分の家族や友人などの声が記録されている電話。知らない声は拒否できる』

●「早く歩けない」
→アイデア『最後の人が渡りきるまで赤にならない信号』

「認知症の方にとって良い聞き手とのかかわりはとても大事。今後も様々な機会にもっと不自由を聞いていきたいと思っています」

環境調整でBPSDを予防!「チーム孫」の対応

最後は、心筋梗塞で病院に搬送された認知症患者Aさんの事例です。

ICUに搬送時、その状況から身体拘束の同意サインを求められたAさんの家族は断固反対します。「1度でも拘束を経験することによって、その後の状態が悪くなる」。ストレスによってBPSDを発症するケースが多いのです。

病院側は、暴れたり興奮した場合に待機している家族を呼ぶことを提案しましたが、家族側は「そうなってからでは遅い」と、孫6人でシフトを組んで常にそばに付き添うことで、Aさんが無理なく病院生活を許容できる環境を整えました。

●孫6人はグループチャットで常に状況を把握。検査時の付き添いや、Aさんのバイタル情報などを共有。
●見当識障害のあるAさんの混乱を防ぐため、「今検査」「これから○○ちゃんが来る」「携帯ロビーで充電中」などの状況を折り紙に書き、目につくところにおいておく。
●実際に、自分が何故病院にいるかわからず、逃亡を図ったときにも孫が対応。
●どういうことがあったかを、一緒に確認しながらAさんに自筆でメモを取ってもらう。

色々すぐに忘れてしまうのですが、自筆のメモを読むと思い出すそうで、孫たちと共に リアリティ・オリエンテーションにあたることも行っていたようです。メモの中には『死んでもいいから絶対に痛くしないでと、孫たちが先生に何度も言ってくれた、うれしい』などといったものもあり、無事に入院生活を終えました。

「BPSDは予防が大事ですが限界もあります。この場合は孫の結束力で乗り切りましたが、訓練を受けたボランティアを養成して、力を発揮していただくのもよいでしょう。また、血縁に限らず、いろいろな人が実は細部を支えている例も多いのです」

編集部より:
予防とは、何かが劇的に変わるものではないため、実感しづらい方も多いかと思います。 しかし黒川氏の発表で、そんな予防の成果を、皆さんも具体的に知ることができたのではないでしょうか。

”百歳回想法”では、他の人との関わりやコミュニケーションを促し、一人では得られない感情や刺激を体験できました。また、”チーム孫”の例では、本人が安心できる環境づくりに尽力することで、落ち着きを維持し、症状悪化を防ぐことにつながりました。

専門家と取り組む非薬物療法はもちろん、身近な生活全般のサポートを行う予防にも継続的に取り組むことで、症状の悪化を防ぐだけでなく、患者本人の精神状態を安定させる効果があるのです。


▼関連リンク
認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)

第35回日本認知症学会学術集会が開催されました


こちらのニュースもどうぞ

認知症最新ニュース アクセスランキング

  1. 1認知症患者は2025年に700万人を突破。65歳以上の5人に1人
  2. 2認知機能の維持に希望の光!注目される「コリン」の効果とは[PR]
  3. 3【日曜夕方放送】NHK Eテレこころの時代「介護×演劇」で認知症…
  4. 4アルツハイマー病の最先端の情報、無料公開シンポジウム
  5. 5認知症関連書籍 新刊案内 5/28
  6. 6回想と香りで認知症を予防する「脳活・ライフレビューノート」
  7. 7【明日放送】NHKガッテン!「これが世界最先端!夢の認知症予防S…
  8. 8医療・介護施設の徘徊対策に!少ない人手で効率的に守る「顔認証シス…
  9. 9認知症で注目されているコリンと コレステロールの意外な関係?![…
  10. 10今週の認知症関連NEWSまとめ[5/27]
このページの
上へ戻る