認知症の中核症状と行動・心理症状(BPSD/周辺症状)

認知症の症状は、中核症状と周辺症状(BPSD)の大きく2つにわかれます。 このページでは、中核症状と周辺症状の関係や、個別の症状、具体的な症例、介護現場で実践されている対応と改善策について解説します。

この記事の目次
  1. 認知症の症状は、大きく2つに分けられる
  2. 中核症状と周辺症状の関係
  3. 「中核症状」とは
  4. 記憶障害
  5. 見当識障害
  6. 理解・判断力の障害
  7. 実行機能障害
  8. 失語・失認・失行
  9. 「周辺症状(BPSD)」とは?
  10. 「周辺症状(BPSD)」の種類
  11. 不安・抑うつ
  12. 認知症による徘徊
  13. 弄便(ろうべん)
  14. 物盗られ妄想
  15. 認知症によるせん妄
  16. 幻覚と錯覚
  17. 暴力・暴言・介護拒否
  18. 失禁
  19. 不眠・睡眠障害・昼夜逆転
  20. 帰宅願望
  21. 食べない
  22. 異食

認知症の症状は、大きく2つに分けられる

認知症では、加齢による脳の病的な変化や病気などによる脳の障害により脳の細胞が壊れます。その脳の細胞が担っていた役割が失われることで起こる症状を「中核症状」と言います。

一方、中核症状によって引き起こされる二次的な症状を「行動・心理症状」や「周辺症状」と言います。BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という略語も使われています。

中核症状と周辺症状の関係

A「認知症が発症して今まで出来ていた事…掃除や洗濯等の家事や趣味で行ってきた活動が認知症という病が原因で少しずつ上手く出来なくなってきた」
B「その方は落ち込みやすく、Aが原因で精神的に不安定になった」

Aは認知症の中核症状がみられる状態です。 しかし、人には性格があり、失敗を気にしない人もいれば深く落ち込む人もいます。Bのように落ち込みやすい性格の方の場合「不安」の行動・心理症状が出てくることもあります。また、自分に厳しく「何故出来ないんだ」と自分を追い込むような性格の方だと「焦燥(焦り・怒り)」に変わる可能性もあります。

行動・心理症状には必ず「中核症状と本人が持ち合わせた性格や環境に起因する理由」があり、その理由を理解し適切な対応をとることで本人が穏やかに生活する事が可能となります。逆に理解されない事で周辺症状がより悪化し介護が困難となるケースもあります。


「中核症状」とは

中核症状とは一般的に「認知症の方なら誰でも現れる症状」のことです。以下のような症状が見られるでしょう。

記憶障害

認知症の方に早期からみられる症状のひとつが記憶障害です。
物忘れや、さっき起きた出来事が思い出せない、覚えていたことや知っている人の名前が思い出せないなどの症状がみられます。

見当識障害

見当識とは、自分が今どのような状況に身を置いているかを把握する能力のこと。見当識障害では、年月日や時間、季節、場所、人物などが分からなくなります。また、周囲の人との関係性も分からなくなります。

年月日や時間、季節が分からなくなると、遅刻が多くなる、ごみの日が分からなくなる、受診日に通院しない、季節に合わない服を着るなどの行動がみられます。

場所が分からなくなると、いつも通っている近所のスーパーに出かけたのに道に迷う、トイレの場所がわからなくなり間に合わずに失禁をしてしまうなどの行動がみられます。

人物が分からなくなると、自分の子供に対して「あなたは誰?」と質問したり、自分の親が亡くなったことも理解できない場合もあります。

理解・判断力の障害

理解・判断力の障害とは、物事の理解に時間がかかり、一度に複数のことを言われる、行動しようとすると理解が難しくなる症状です。また、いつもと違う出来事に対して混乱する場合があります。 曖昧な表現や、推測する必要がある表現は理解がしにくくなりますので、具体的な表現で指示を心がけましょう。

実行機能障害

実行機能とは、物事を論理的に考えて、計画を立てて実行することです。例えば、今日の夕飯のメニューを考えて、家にある食材と買いに行く食材を選択し、買い物に行くという一連の行動のこと。実行機能に障害が起こると、物事を計画的に考えて効率的に実行できなくなります。例を挙げると、洗濯をしながら掃除を行い、掃除が終わってから洗濯物を干すといった複数の行動を計画的に実践することが難しくなります。 また、予想外の出来事に対して、他の手段を考えて適切な方法で対処できなくなります。

失語・失認・失行

失語

失語とは、言葉を司る脳の部分が機能しなくなり、言葉がうまく使えなくなる状態です。失語には、運動性失語(ブローカ失語)と感覚性失語(ウェルニッケ失語)の2種類があります。

運動性失語(ブローカ失語)
相手の話は理解ができますが、言葉が出にくく、間違いが多くなり、文字を書くことも難しくなります。

【症状例】
・『テレビ』を「これは何ですか?」と質問すると、『エレビ』と答える
・「今、どんな症状がありますか?」と質問すると、「…チェ…ウゴツ…ナク(手が動かない)」と、意味は理解できているが、言葉が明瞭に出てこない

感覚性失語(ウェルニッケ失語)
言葉は流暢に出てきますが、相手の話や書かれた言葉の意味を理解することはできません。

【症状例】
・『テレビ』を「これは何ですか?」と質問すると、『デンワ』と答える
・「今、どんな症状がありますか?」と質問すると、「メガネがね、動かなくて、重いけれども。」と、意味が通じない言葉を答える

失認

失認とは、身体的には問題がなくとも、「五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)」による認知力を正常に働かせ、状況を正しく把握することが難しい状態をいいます。自分の身体が感覚として感じていても、その意味が分からない状態です。

【症状例】
・触られている事実は分かっていても、その部分が分からない
・麻痺であることを理解できない
・目でピアノを見ても認識できないが、音色を聴くとピアノと認識する

また、自分の身体の半分の空間が認識できない半側空間無視の状態も、失認の一つです。半分の空間が認識できないため、食事を半分残したり、絵を対象物の半分だけ描いたりします。

失行

失行とは、身体を動かす機能の障害はみられず、行動しようとする意思はあるものの、今までの生活で身につけていた動作が行えない状態です。

【症状例】
・ズボンの履き方を忘れ、頭からかぶってしまう
・端やはさみの使い方がわからない(指先の巧緻性が低下する)
・指示された行動を実行に移せない

複数の手順や工程を経ることは失行の方には難しい場合が多いです。工程の数を減らしたり、使い慣れた道具を使用する、難しい作業の場合は目印等を付けて本人に分かりやすくするといった工夫が必要になります。

「周辺症状(BPSD)」とは?

周辺症状(BPSD)は、中核症状が元となり、行動や心理症状に現れるものです。本人の性格や環境や心理状態によって出現するため、人それぞれ個人差があります。
病気をよく理解して適切に対応したり、リハビリなどを行うことで、改善する場合もあります。

「周辺症状(BPSD)」の種類

不安・抑うつ

中核症状が原因で起きた失敗を自覚した際に「認知症ではないか」という不安や、抑うつ状態が起こることがあります。

例えば、物忘れを自覚したことで、不安や焦りを感じたり、落ち込んだり、隠したいなどの感情が募ります。更に、そのような場合に周囲の対応が不適切だと、イライラしたり不機嫌になったり、怒る、暴力を振るう、興奮状態になるなどの場合もあり、悪循環に陥ります。 本人の不安をあおるような言動はしないように努めましょう。

「認知症」と「うつ」は混同されやすい症状であると共に、認知症となった後にうつを併発することもあります。

主な症状としては、意欲の低下や思考の障害など、見た目には一般的なうつ病に似た症状が現れます。これが混同されやすい原因で、実際には認知症とは異なる「うつ病性の仮性認知症」という状態が存在します。

しかしよく観察すると、うつ病性の仮性認知症と認知症によるうつには決定的な様態の違いがあり、物忘れした自覚や本人の深刻さが仮性にはあるが認知症には少なく、気分の落ち込みも仮性では大きいですが認知症ではそれほど大きいものではありません(むしろ認知症では「楽観的」になる傾向があります)

そして、脳の画像診断を行う事で異常があれば認知症という診断となります(仮性認知症では脳に異常所見は見つかりません)

しかし、仮性認知症といえども認知症に移行しないというわけではありません。まずは専門医を受診して頂き今後の対応について話し合いをされるとよいでしょう。

認知症による徘徊

自分のいる場所や時間の見当識が障害を受け、本人の生活習慣や性格等が影響して「徘徊」という形で元の場所に戻って来られなくなる症状を指します。本人が求める終点に自力で辿り着く事は殆ど無く、介護者が傍に居なければ彷徨い歩き、脱水や過労、転倒や交通事故・発見されずに行方不明となる等で最悪の場合死亡することもあります。

徘徊には必ず「理由」があります。何故その場所に行こうとするのかを本人に聴き、否定することなく受容し、夜中であれば「明日の朝一緒に行きましょう」などと言って他の話題に話を切り替えてみると穏やかになられることもあります。昼間で本人が望む場所が近くにあるのであれば一緒に行くのも良いでしょう。出来るだけ本人の気持ちに寄り添ってみて下さい。

弄便(ろうべん)

大便を手で触れたり掴んだりして、自分の体や寝具・壁など至る所に擦りつける行為を「弄便」と言います。弄便の原因はオムツ内に失禁したことによる不快感を認知症の進行により介護者に伝えることが出来ず、自らオムツを外して自分で何とかしようとした結果が弄便に繋がると考えられます。

逆にトイレやポータブルトイレの中の便を掴むという行為は殆どありません。オムツへの失禁はとても不快なだけでなく自分ではどうすることもできないという強いストレスや意欲の低下を招きかねません。介助すればトイレへの移乗が可能な方であれば、出来るだけオムツを使わずトイレで自然排泄が出来るよう環境を整備すると弄便等の不潔行為は減らせるかもしれません。

物盗られ妄想

認知症が進行すると、いつ、どこに、何をしまい込んだかを忘れてしまいます。「お金・通帳・貴重品」を失くしたと騒ぎ、タンスや引出しの中を1日中探し回ってしまいます。それでも見つからず被害的な気持ちが出てくると、そのうち誰かが盗んだのではないかと一緒に住む家族や介護者に疑いの目を向けるようになります。これが「物盗られ妄想」となります。

介護者や家族がご本人にとって「信頼できる人」であれば、大きなトラブルとならずに済むケースも多いのですが、例えば訪問介護のヘルパーで担当が頻繁に変わるような環境だと信頼感が低く本人の被害妄想が悪化することもあります。その他の要因でも本人との信頼関係が築けていない場合は辛抱強く誠意ある対応をしていく必要があります。

物が無くなり易い環境が要因である事もあります。財布や貴重品を入れる場所に予め目印を付けたり大きな文字で書いておくと本人にも理解できるようになる場合もあります。

認知症によるせん妄

認知症を発症した後のせん妄の発生要因として、体の痛みや労作時などの疲れや息切れ、便秘等の体調不良により起こる事が考えられます。発生すると急激な錯乱・混乱状態となりますが、発生要因に対して適切な治療や対応を行う事で精神状態をせん妄発生以前の状態に回復させることは可能です。

予防には日々の体調管理が不可欠です。医療的な管理で疼痛管理や便秘の状態を把握し、日常では生活動作能力に見合った活動を行うよう心がける必要があります。

幻覚と錯覚

幻覚とは、知覚の障害のことで、幻視、幻聴、幻触、幻味、幻嗅などがあります。認知症の場合、幻視がみられやすいと言われています。

錯覚とは、本来あるものを異なったものと見間違える場合を言います。夜間、暗闇の中で見間違えて驚いてしまう場合もあります。

妄想とは、誤った思い込みのことで訂正が聞かない状態を言います。妄想の中で、起こりやすいのは物盗られ妄想です。

必要な対応としては、本人を安心させる為に、幻覚として見えていると思われる存在がいる場所に実際一緒に行って、その存在を打ち消す(=本人を安心させる)必要があります。子供が部屋で走り回っていると言われれば、その部屋に行って、誰もいない事を一緒に確認するのです。そうすると、本人は「あぁ、誰もいないね」と言って安心される事と思います。

暴力・暴言・介護拒否

介護に対する不満や不安・苛立ちが募ると、健常な時は理性で抑えていた性格が表出して暴力・暴言となることがあります。若年性認知症の方や、男性の認知症の方の場合は標的となった介護者が危険に晒されることもあります。

認知症になると、思っている事を表現する事が難しくなります。暴力や暴言が出るのは、自分が考えている事がその通りに行かなかったり、望まない介護を受けることで不快な思いをしたり、介護者の声かけの対応が悪かったり(命令的であったり、禁止するような声かけ)することに対する抵抗である事も多々あります。それが介護拒否に繋がることもあり、在宅生活を続ける上で大きな障害になることもあります。

介護者が介護の在り方を見直したり、本人の意向と真摯に向き合い誠意ある対応をとる事で信頼を得て介護が円滑に運ぶこともあります。

失禁

認知症の方の失禁の理由

トイレの場所が分からなくなる。
トイレに行きたくても場所が分からなくなり、探しているうちに失禁してしまうということがあります。対応策としてはトイレに大きな目印を付けておく」「夜はトイレまでの通路に明かりをつけておく」「ふらつきがあり移動が不安な場合はポータブルトイレの導入を検討する」といった手法が考えられます。

トイレの感覚が分からなくなる。
認知症になると尿意を感じる機能が低下し、トイレに行くための行動が遅れ失禁するようになります。

失禁を防ぐために介護者が出来る事

ご本人の排泄周期をチェックし、時間をみながら定期的にトイレの声かけを行う
行動が遅れるのであれば、予めトイレに行く時間を決めておいて排泄の誘導・声かけを行うとよいでしょう。失禁は本人の自尊心が大きく傷つく事ですから、失敗しにくい環境にしていく事も必要と思われます。

ご本人がトイレに行く前に起こす前兆を察知する
特に同居されている介護者の方であればご本人の動きをよく観察してみて下さい。なんだか落ち着かない、急に立ち上がろうとする…といった行動のあとに排泄に及ぶという事もあります。見当識が障害されているのでそのまま放っておくと失禁するリスクがあるので、声かけしてトイレへ誘導するとよいでしょう。

薬の影響で夜間頻尿、頻回な失禁で悩んでおられる方もおられるかもしれません。ですが、出来るだけオムツは使わないよう心がけて頂きたいと思います。オムツに排泄する事は介護者の負担を軽減できる反面、ご本人の自立を阻害し、排尿感覚を奪ってしまうという危険性があります。残存機能を維持し、立位や移乗が可能であればトイレ(ポータブルトイレ)を利用できるよう支援をお願いしたいと考えます。

不眠・睡眠障害・昼夜逆転

高齢者になると一般的に眠りが浅くなります。加えて認知症の方は、睡眠・覚醒・体内時計の調節に関わる神経伝達物質の量が変化する事で睡眠障害となる危険性が高いと言われています。高齢かつ認知症となると夜間の睡眠量が減り、日中に傾眠傾向となり、昼夜逆転が起きやすくなります。

昼夜逆転で最も介護者に負担となるのは本人の夜中の不眠による介護量の増大でしょう。夜中に大声で叫んだり大音量でテレビを見たり、夜中なのに今から仕事に行くと言って外に出ようとします。

対応としては日中の活動量を増やし、日光を浴びる活動を行うことで体内時計を正常化することや、夜の睡眠時間の前に入浴や足浴を行う事で睡眠しやすい環境を整えることが挙げられます。まずは薬に頼らず活動内容の見直しから始めてみましょう。

帰宅願望

ご本人が「帰りたい」と思う理由は、置かれた環境や本人の状態によって個々に異なります。例えば昔の記憶しか残っておらず「自分の家=幼い頃に過ごした実家」で、今家族と居る家は自分の家じゃないと思い込んでいるかもしれません。女性の場合では「家事があるから」と、外に出て車(バス・タクシー)を探そうとされる方もおられます。

このような症状が1日の中では夕方にかけて起こり易くなる事から「夕暮れ症候群」と言われる事もあります。

ご本人はとても不安に感じておられます。一刻も早く家に帰らなければ…と。介護者はまず本人の話に耳を傾け受容する必要があります。頭ごなしに「帰れない」と否定しては余計不安感を助長してしまいます。本人の話を聞いたら「もうすぐ夜だから明日の朝にしましょう」とか「では一緒に帰りましょうか?」と言い、周囲を一周して再び戻って来てもよいでしょう。その後に「御飯を食べて行きませんか?」等と声かけをして帰宅願望から話がそれていくようにしていきます。

認知症の方の行動にも「理由」があります。帰宅したいという気持ちを受け止め、本人の立場に立った対応を心がけましょう。

食べない

レビー小体型認知症の方の場合、パーキンソン症状による摂食障害や嚥下障害がみられることがあります。パーキンソン病患者の死因は肺炎が最も多く、その肺炎の原因は「誤嚥性肺炎」による部分が多いと言われています。誤嚥や摂食障害があると食事をしようとする意欲が低下し、食事を食べなくなる事があるのです。

また、他の病気によるものも考慮しなければなりません。認知症では本人から痛みや不調の訴えが出てこないことも多く、検査をして初めて事が重大だったと気付く事も多々あります(高齢者の場合、我慢して苦痛を口にしない事もあります)

考えられる病態の一例としては、胃酸が逆流して食道粘膜に炎症が起きる逆流性食道炎や、脱水症による食欲の減退等があります。食事量を確認し、明らかに量が減少している場合等は主治医に相談してみましょう。

異食

認知症になると見当識が障害され、目の前に有る物が食べられるかどうかも分からなくなる状態になる事があります。異食とは食べられない物を口にしたり、実際食べてしまう事を言います。

もし介助を受ける人が異食をする状態となったら…手の届く範囲のものを何でも口にしてしまう危険性がありますので、手に届く範囲には「口に入る食べられない物は置かない」ようにしましょう。特に気をつけたいのは医薬品や電池など、体に入ると極めて有害となる物質です。もし口にして誤って食べてしまったら、説明書等をよく読んで適切な対応をしてからすぐに病院に行きましょう。

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