運動によって筋肉から分泌されるホルモンが、認知機能に関わることを調べた研究

2019年2月15日

認知症予防には運動が効果的だと言うものの、その詳しいメカニズムは明らかではありません。

今回は、運動によって筋肉から分泌されるホルモン「ミオカイン」が、認知機能に与える効果について調べた論文をご紹介します。

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認知症ねっとACADEMICS
認知症ねっと編集部
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この記事の目次
  1. 骨格筋から分泌されるホルモン「ミオカイン」
  2. 運動によって増えたイリシンは、認知機能に良い影響をもたらす
  3. 運動によってミオカインの分泌が促される

骨格筋から分泌されるホルモン「ミオカイン」

ミオカインとは、骨格筋の収縮に伴って分泌され、ホルモンとして働くタンパク質の総称です。その種類は300を超えるともいわれ、まだ働きが明らかにされていないものも少なくありません。最初に見つかったミオカインは「インターロイキン6(IL-6)」でした。IL-6はもともと免疫細胞で作られる物質として知られていましたが、運動時や運動後に血中濃度が増えることがわかり、この物質が筋肉からも分泌されていることが分かりました。現在では、脂肪の利用促進や抗炎症作用など、IL-6には多彩な役割があることが明らかにされています。

この度ブラジルの研究チームは、ミオカインのひとつである「イリシン」が認知機能に与える効果について調べました。イリシンは、FNDC5という、細胞膜に結合しているタンパク質の一部が分離したものです。脳の海馬では、神経細胞の成長を調節するタンパク質である脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌が、イリシンによって促されることが報告されています。海馬は記憶に深く関わる領域であることから、研究チームは、イリシンが記憶に及ぼす影響を調べました。

早期のアルツハイマー型認知症患者と、後期の患者の海馬に含まれるイリシンの量を比較したところ、後期の患者のほうが早期の患者より少ないことが分かりました。そこで、アミロイドβがイリシンにどのような影響を与えるかをマウスの海馬で調べたところ、アミロイドβを培養した海馬に与えるとイリシンの量が減ることも分かったのです。

次に研究チームは、遺伝子操作によってイリシンを作ることができないマウスを作成し、その挙動を調べました。その結果、イリシンを作れないマウスは一度見たものを記憶する力が、普通のマウスよりも劣ることが分かりました。ただし、迷路や電気刺激を使ったテストでは普通のマウスとの違いはありませんでした。

運動によって増えたイリシンは、認知機能に良い影響をもたらす

さらに研究チームは、運動によって分泌されたイリシンが認知機能に与える影響を調べました。実験には、アミロイドβが作られやすいように遺伝子操作されたマウスを用いました。このマウスを2つのグループに分け、ひとつのグループは1日に1時間、週に5日間のスイミングによる運動を5週間続けました。もう片方のグループは特に運動を行いませんでした。

実験の結果、運動を行ったグループは、行わなかったグループよりも神経細胞の接続が良く、記憶力も良いことが分かりました。しかし、それぞれのグループのマウスをイリシンが分泌されないように細工すると、運動をしたかどうかにかかわらず、記憶力は低くなることも分かりました。

以上の結果かから、筋肉から分泌されるミオカインのひとつであるイリシンは、運動によって分泌が促され、認知機能に良い影響を与えることが示されました。また、アミロイドβがあるとイリシンが減ることから、アルツハイマー型認知症などでは、イリシンの減少が認知機能に影響している可能性も示しています。

運動によってミオカインの分泌が促される

今回ご紹介した論文では、筋肉から分泌されたイリシンが血液によって脳に運ばれ、記憶に関わる可能性も示されました。イリシンなどのミオカインは骨格筋の収縮時に分泌される物質です。もともと、運動時に増える物質として見つかったことからもわかるように、運動はミオカインの分泌を促す効果があります。筋肉は私たちの体を形作るだけではなく、体内の生理活動に欠かせない物質を分泌する臓器であることを意識すると、運動の大切さがよくわかるのではないでしょうか。

▼ご紹介した論文
Exercise-linked FNDC5/irisin rescues synaptic plasticity and memory defects in Alzheimer’s models
MV. Lourenco. et al. Nature Medicine. Vol 25. Jan 2019. p165–175


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