運動による神経細胞の新生が認知機能の改善に結びつく可能性

2018年10月22日

皆さんは日頃、どんな運動をされていますか? 運動は、単に筋肉や骨を丈夫にするというだけではなく、脳や認知機能にも影響すると考えられています。運動習慣は認知症予防や、症状の改善にも効果があると期待されていますが、その仕組みは明らかではありません。

今回は、運動が認知症の症状の改善を促すメカニズムに迫った研究をご紹介します。

この記事の執筆
認知症ねっとACADEMICS
認知症ねっと編集部
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この記事の目次
  1. 脳の神経細胞は大人になっても作られる
  2. 運動によって神経細胞の新生が活発になる
  3. 運動が認知機能に与える影響は想像以上に大きい

脳の神経細胞は大人になっても作られる

先日、国際的な学術誌Scienceに、運動が認知症の症状改善につながる仕組みを調べた論文が発表されました。アルツハイマー型認知症ではβアミロイドというタンパク質が脳に蓄積するのが特徴です。過剰なβアミロイドは神経細胞を破壊し、脳の働きを妨げると考えられています。アルツハイマー型認知症では、記憶障害や見当識障害(時間や場所をとらえる力が低下する)などの症状が出ることが特徴です。

記憶に深く関わるのが脳の海馬と呼ばれるところです。海馬は記憶の形成に重要な役割があると考えられており、たとえば海馬を損傷すると、新しいことが覚えられないなどの症状が出ます。

脳の神経細胞の数は生まれたときに最も多く、歳をとるにつれてどんどん減っていきます。「大人になると神経細胞は新しく作られることはない」とされてきた長年の定説が覆されたのは、ごく最近のことです。新たに神経細胞が作られることを、神経の新生といいます。現在では、大人の脳でも、海馬の歯状回というところで、新生が起こっていることが明らかになりました。

神経細胞の新生は記憶の形成に関わっていると考えられています。また、アルツハイマー型認知症の脳では、新生の能力が損なわれることも報告されています。

運動によって神経細胞の新生が活発になる

アメリカのマサチューセッツ総合病院の研究グループは、遺伝子操作によりアルツハイマー型認知症を発症したマウスを使って実験を行いました。

このマウスを、運動に適した環境で育てたところ、運動しなかったマウスよりも神経細胞の新生が活発になることがわかりました。また、蓄積したβアミロイドの量が減ることもわかり、さらに行動を調べたところ、記憶や認知機能が改善していることも明らかになりました。

神経細胞の新生は遺伝子を操作することや、薬剤によっても誘発することができます。アルツハイマー病のマウスにこれらの操作をしたところ、神経細胞の新生は増えたものの、蓄積したβアミロイドの量に変化、また認知機能にも変化はありませんでした。

運動によって起こる神経新生は、薬によるものとどのような違いがあるのかを調べたところ、運動を行ったマウスの脳では、神経細胞の成長に欠かせないBDNF(脳由来神経栄養因子)などの物質が増えていることがわかりました。そこで、新生を促す薬剤にBDNFを加えて与えたところ、記憶力や認知機能が改善されたのです。

以上の結果から、アルツハイマー型認知症の症状を示すマウスでは、運動によって神経細胞の新生が活発になり、蓄積したβアミロイドの量が減り、同時に認知機能が改善されることがわかりました。また、運動しなくても、新生を促す薬にBDNFを加えて与えることで同様の効果が得られるという結果も得られたのです。

今後、運動が認知機能改善をもたらすメカニズムのさらなる解明が進み、認知症予防や認知症の症状改善に期待が高まります。

運動が認知機能に与える影響は想像以上に大きい

スポーツ庁が行った最近の調査によると、健康を意識して積極的にスポーツに取り組んでいる高齢者が増えている一方で、働き盛りや子育てに忙しい30代、40代では運動習慣がない人の割合が多いようです。

今回ご紹介した論文はマウスによるものですが、ヒトでも運動による認知機能への効果は大きいと考えられます。積極的に階段を使う、お子さんと一緒に公園を駆け回るなど、ちょっと意識を変えるだけで、運動する機会は見つけることができます。ぜひ、毎日の生活の中で積極的に体を動かすように工夫してみてください。

▼ご紹介した論文
Combined adult neurogenesis and BDNF mimic exercise effects on cognition in an Alzheimer’s mouse model.
Choi SH et al., Science. 2018 Sep 7;361(6406). pii: eaan8821. doi:
10.1126/science.aan8821.


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