公開シンポジウム「認知症と生きる、認知症に挑む」をレポート

2018年3月22日

2018年3月3日御茶ノ水ソラシティにて、AMED主催の公開シンポジウム「認知症と生きる、認知症に挑む〜より良い暮らしと社会のために、研究者の挑戦」が開催されました。研究発表だけでなく、当事者やメディアの方の講演も行われた当日の様子を、認知症ねっとがレポートします。

この記事の執筆
認知症ねっと
認知症ねっと編集部
認知症ねっと
この記事の目次
  1. AMEDとは
  2. 認知症の問題を共有する基調講演
  3. 「何が起き、何が必要か」わたしたちに聴いて~よりよい暮らしや社会を一緒につくろう~
  4. 「メディアから見た認知症〜取材を通して学んだこと」
  5. 充実した内容が揃うポスター発表
  6. 最新の取り組みを報告する研究発表
  7. 編集部より

AMEDとは

AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)は、医療分野の環境整備の中核的な役割を担う内閣府所管の国立研究開発法人。医療研究開発の推進、そしてその成果の円滑な実用化を進めています。

シンポジウムを主催した脳と心の研究課では、認知症の基礎脳科学研究のほか、診断方法の開発、より良いケア実現の取り組み、社会的な支援の取り組みなどを推進しています。今回のイベントは、研究の報告や認知症に対する理解を深めるため、幅広い講演者を招いて開催。多くの一般参加者が来場しました。

認知症の問題を共有する基調講演

基調講演は、認知症当事者そして認知症に関わるメディア関係者によるものでした。より良い暮らしと社会のために、研究者とは違う切り口の講演を据え、様々な視点から幅広く問題を共有したことは、このシンポジウムの大きな特徴です。

「何が起き、何が必要か」わたしたちに聴いて~よりよい暮らしや社会を一緒につくろう~

1つ目の基調講演はレビー小体型認知症の当事者である日本認知症本人ワーキンググループの平みきさん。診断から7年、多くのことができなくなる中、生活の整理や工夫、様々な努力によってできることが増え、社会参加も果たしている姿に、会場からは称賛の眼差しが注がれます。

認知機能を努力によって維持している平さんは「認知症になったら、病気に負けるなとは言わない。自分に負けないで。衰えている部分があるのなら、どのようにカバーして行くかを決断していくべきです」と語り、社会参加の大切さも訴えました。

「メディアから見た認知症〜取材を通して学んだこと」

2つ目は読売新聞社の本田麻由美さん。認知症が「痴呆」と呼ばれ偏見が目立つ時代から「伝える側に偏見があったら社会の認識が変わるわけがない」との思いから、当事者視点の大切さを重視した取材で出会った数々の出来事の発表となりました。認知症になっても暮らしやすい社会を実現するためには、「当事者が何を考えているのか」「自分だったらどうするのか」という視点が必要であるという問題提起も行っています。

一方で、現在の課題として予防と治療も重視しています。最近あちこちで目にする予防に関する最新情報について、どれが正しいのかをはっきりさせる必要性を語るとともに、現在の薬や治療法の開発は過去の患者や研究者の贈り物であり、我々も未来のために協力できることがある事実に言及しました。

充実した内容が揃うポスター発表

講演のほか、ポスター発表も同時開催。「病気を理解するために」「認知症のより良いケアと予防のために」「認知症のための社会的な取り組み」「認知症治療の最前線」「診断をより正確に」という5つのカテゴリにまとめられた各発表の前は、多くの来場者で賑わいました。

画像診断についての発表前で熱心に話を聞く家族や、レビー小体型認知症の原因物質を排除する最新の研究前で質問を投げかける医療従事者などが見受けられ、このイベントのコンテンツや切り口の多様性、そして来場者の幅広さが浮き彫りとなりました。

最新の取り組みを報告する研究発表

2つの基調講演のほか、ドクターや研究者による講演も4本行われています。参加者が医療関係者ばかりではないことを考慮し、どの講演も認知症の基礎知識から丁寧にわかりやすく説明。生活習慣病がリスク要因になることや、昨年話題になった睡眠負債についての研究発表もあり、会場はメモを取る参加者の姿が多く見られました。特に昨年から今年にかけて、メディアにも大きく取り上げられたバイオマーカーについての講演は、血液検査で認知症リスクを判別し予防できる希望的な未来が示唆されています。

どの研究も現在ターゲットとしているのは症状の発症後でもMCIの段階でもなく、それより前の「プレクリニカル期」です。アルツハイマー型認知症で言えば、原因物質のアミロイドβは40〜50代から徐々に蓄積され、MCIの時期を経て発症すると言われています。このアミロイドβが溜まり始める時期をプレクリニカル期と言い、何の症状も出ていないこの時期に予防をすれば、認知症リスクが下がるという考えの元、現在薬や予防法が研究されています。

編集部より

認知症を取り巻く現在の社会に必要なことが大きく2つあることを、このシンポジウムで実感した来場者も多いことでしょう。

1つは新オレンジプランにもあるように、認知症になっても暮らしやすい社会の実現です。環境面の整備は勿論、認知症に対する人々の理解を得るための啓蒙や、当事者の声が環境整備にも必要なことがわかりました。

そしてもう1つは予防と治療。この日披露された様々な研究は「認知症は治らない病気」というマイナスイメージから「予防すれば罹患しない病気」という前向きな認識に変化していくであろう未来を垣間見せてくれました。また、努力によって認知機能を回復した当事者の声は、諦めていた他の当事者にも勇気を与えてくれました。

そして、予防は研究者だけの仕事ではありません。薬や治療法の開発は一般社会の人々の協力によって成り立ちます。治験などの参加により、認知症のない未来に私たち一人ひとりが貢献できるかもしれません。皆さんも、治験や研究への協力の機会があったら是非考えてみてください。


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