徹底したサービスで特別感のある場所づくり~【第4回】認知症に寄り添う人々~

2017年9月7日
認知症に寄り添う人々

認知症ケアの最前線にスポットをあて、患者さんたちに寄り添ったケアに取り組まれている方々のお話しをうかがう連載「認知症に寄り添う人々」。

第4回は、静岡県浜松市のデイサービス「ツクイ浜松大平台」の調理スタッフ小野准さんです。嚥下食の第一人者・金谷節子氏の金谷栄養研究所に所属し、嚥下料理研究家としても活動されている小野さん。嚥下食や真空低温調理法を用いた食事の提供や、栄養面からつながる事業所独自のサポート・取り組みなどくわしくお聞きしました。

この記事の執筆
認知症ねっと
認知症ねっと編集部
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シリーズ【認知症に寄り添う人々】

超高齢化社会をむかえた現代日本において、認知症患者の増加は大きな社会問題となっています。実際にはどんな病気なのか、予防できるのか、治るのか治らないのか。また、家族や周囲の対応は?どう接したらよいか…など、それら一連をしっかりと理解している人は多くないことでしょう。

近年、その高い関心から認知症への対策や取組み、研究発表なども多数行われています。しかし、認知症の疾患特性からみると、数字に現れるものばかりがすべてではありません。

今回「認知症に寄り添う人々」というテーマで、現場の最前線にスポットを当て、患者さんたちに寄り添ったケアに取り組まれている方々のお話しを全6回のシリーズでうかがいます。数字や研究では見えてこない真のケアやサポート方法などを深くさぐっていきたいと思います。

▼前回までの認知症に寄り添う人々
シリーズ「認知症に寄り添う人々」ダイジェスト

第4回 「徹底したサービスで特別感のある場所づくり」

第4回は、静岡県浜松市のデイサービス「ツクイ浜松大平台」の調理スタッフ小野准さんです。嚥下食の第一人者・金谷節子氏の金谷栄養研究所に所属し、嚥下料理研究家としても活動されている小野さん。嚥下食や真空低温調理法を用いた抗酸化の食事の提供や、栄養面からつながる事業所独自のサポート・取り組みなどくわしくお聞きしました。

選べるメニューで食事をもっと楽しい時間に

——まずは「ツクイ浜松大平台」の特長などをお聞かせください。

今年の11月でオープンして丸5年を迎えるデイサービスです。所長を中心に楽しいことや面白いことが大好きなスタッフばかりで、他にはないユニークな企画やイベントを開催するなど、お客様とスタッフの関係も良好でアットホームな事業所です。

特長的なのは、「趣向を凝らしたレクリエーションの充実」、「専門職による機能訓練」、「管理栄養士による選べる食事」です。とくに食事には力を入れていて、毎日3種類のメニューから選ぶことができるオーダー制を採用しています。

——3種類から選べるなんてレストランでのランチみたいですね。

そうなんです。朝、来所いただいた際に3種類のメニューの中からお好きなものをセレクトしてもらいます。まずはA、B、Cというようにおかずをチョイスいただき、それからご飯、おにぎり、パン、おかゆの中から主食を選んでもらいます。

食事のコントロールが必要な糖尿病の方や嚥下食などの方には、個別の対応も行っていますが、自分の好きなものが食べられる、自分の意思で決められるなどの理由から、選べるメニューはとても好評をいただいています。

——メニューを選べる喜びって大切ですよね。

食事というのは本来とても楽しいことだと思います。若い時には自分の食べたい物を選び、食を楽しんでいたと思うのですが、ご高齢になってそれが難しくなっておられる方がとても多いと感じています。

一人暮らしの方はもちろんですが、ご家族と一緒にお住まいの方などは、どうしてもお孫さんや若い人たちに合わせたメニューになりがちですよね。または、年配の方用に煮物などの別メニューになっていたり、栄養と食べやすさを優先したメニューやお弁当だったりもします。

そうは言っても、ご家族だって日々忙しいですから「おじいちゃん、今日の晩ご飯は何がいい?」と聞いて食事を作ることが難しいことも理解できます。そこで、お客様にはツクイ浜松大平台での食事を少しでも、楽しんでいただきたいと考えています。

ツクイ浜松大平台の外観
ツクイ浜松大平台の外観

——選べる食事を目的に来られているお客様も多いのでは?

そのように言っていただけることも多く、施設としては本当にやりがいがあります。自分の食べたい物を自分の意思で決められることは、食事を楽しむうえでとても大切な要素だと思っています。

メニューが3つというのもポイントなのです。4つ以上になると迷ってしまって逆にストレスとなり、決められなくて「何でもいいわ」になってしまうし、2つだと選ぶ楽しみが一気に半減してしまいます。

Aは日替わり肉メニュー、Bは日替わり魚メニュー、そしてCは1週間交代で替わるカレーやうどんなどのメニューで、季節や旬に合わせたメニューを心掛けています。

通常食・嚥下食・嗜好、幅広い個別対応

——食事の個別対応とはどのような範囲ですか?

個別対応ができるということが、ツクイ浜松大平台の大きな特徴です。管理栄養士が常勤しているので、とっさのメニュー対応もできます。また、私はツクイ全般の食事指導顧問をしている栄養士・金谷節子の研究所所属でもあり、嚥下食を専門として研究しています。ですから通常食から嚥下食まで、ほとんどの方の食事に対応することが可能です。

最近では、外国の方のご利用も増えてきていますので宗教的な配慮や、アレルギー、好みとしての菜食主義の方への個別対応なども、できるかぎり要望に応えています。

調理に真空低温調理法を採用しています。真空低温調理は食材の栄養素を逃さずに食事が美味しくつくれますし、こちらも大変好評をいただいています。

——手厚いサービスですね。

この仕事に就く前は、長く外食産業で働いていたこともあり、その時に培った調理技術や接客の経験を活かしていきたいと考えています。その観点からすると、私個人としては個別対応やサービスはとても大切なことですし、当然必要なことだと思っています。

ツクイ浜松大平台をご利用いただいているお客様には、少しでも非日常的な体験をしていただきたいと考えています。食事も“外食に行ってきた”気分、お風呂でも“温泉に行ってきた”気分を、少しでも感じてもらえたらと思います。

特別感と非日常を味わえるサービスを

——ちょっとした日帰り温泉などに行った印象でしょうか?

そうですね!そんな気分になってもらえれば本当に嬉しいです。自宅での日常の延長ではなく、お出掛けしてきた、楽しんできたという特別感を感じてもらいたいと思いながら、食事を考えたり、イベントを考えたりします。

この“楽しんでもらいたい”という気持ちが本当の意味でのサービスだと思いますし、こういった施設もサービス業だということをちゃんと理解していかなければならないと思っています。

——お客様の反応はいかがでしょうか?

皆さん「選ぶのが楽しみ」「今日はどれにしよう」など喜んでいただいていますよ。なかでも、とても興味深いのは、認知症の方の反応です。選べるメニューに丸をしてもらうのですが、認知症の方は書いたことをお忘れになることもしばしばです。何度も「私、書いたかしら?」とたずねてきて、3枚ぐらい書いてくれるのですが、その3枚ともがBランチなんですよ。

書いたことをお忘れになっても、食べたいものはしっかり決まっていて記憶に残っているんだなと、私たちも嬉しくなります。やはり、自分の意思で選ぶということは大切で、脳にもリハビリにもとても良いことなのだと感じる例だと思います。

サービス重視でスタッフのモチベーションも向上

お客様と笑顔で会話するツクイ浜松大平台の小野准さん
お客様と楽しそうに会話する小野准さん

——イベントも盛りだくさんだとうかがいました。

食事イベントに関しては、毎月20日に“ビストロツクイ”を開催しています。普段よりちょっと珍しいメニューやランクアップの食事を提供します。直近では「昔デパートの屋上で食べた、よそゆき風の洋食レストラン」メニューでした。ハンバーグや海老フライ、チキンライスなど、ワクワクするような感じをイメージしました。

その他にも、厨房スタッフ対抗で「お寿司vs中華」など選挙風にし、お客様が有権者になって、どちらが食べたいかを投票してもらいました。実際に選挙ポスターも作るんですよ。ガッツポーズ姿のポスターを掲示して、投票を呼び掛けたりしました。そんな風に食事とレクリエーションを一体化させたイベントなどで楽しんでもらえるよう、工夫しています。

——イベント等はどなたが考えられるのですか?

毎月、交代で行事担当が一生懸命に考えています。食事に関しても同様で、「どうしたら楽しんでもらえるか」を必死に練ります。これは大変なようで、実は個々のモチベーションがとてもあがるんですよ。

毎日、決まった食事を作ったり、決まったレクリエーションを提供したりなど同じ時間を過ごしているだけでは、スタッフも次第におざなりになってしまうと思うのです。だけど、自分発信のメニューやイベントなどがあると、何に対しても積極的になれます。

そして何より、自身も楽しいですし、サービスの質も向上していくのです。そんなことも関係しているのか、スタッフの離職率は低いですし、みんなとても仲良しですね。

——スタッフも一緒に楽しめるっていいですね。

お客様と一緒にいつも楽しませてもらっています。ただし、楽しみながらも礼儀や言葉遣いは徹底して気をつけています。基本なのですが、スタッフみんなに「お客様にタメ口を絶対使わない!」と伝えています。事務所などには「タメ口は使わない!」と貼ってあります。

タメ口は、明らかに認知症の症状を悪化させます。他の施設ですが、幼い子どもに話すような言葉づかいで接しているのを耳にした時は、本当に不愉快でした。個人を尊重し、目上の方だということ、人生の先輩方だということ、そしてなにより利用いただいているお客様だということをわかってもらいたいですし、この仕事はサービス業だということを自覚してもらいたいと思っています。

——「タメ口は使わない」大切だと思います。

「言葉は行動に反映される」つまり言葉遣いは態度に出てくると思うんです。丁寧な話し方をすると、動作も所作も丁寧になる。乱暴な言葉遣いをすると、乱暴な動きになる。話し方は身のこなしに繋がっていると思いますので、会話や言葉遣いはとても大切にしていますね。

要介護3以上の方や認知症の方の割合も多いので、言葉や会話を手抜きしないよう特に気をつけ、ご要望や思いを受け取ることができるよう、より丁寧に接することを心掛けています。

中鎖脂肪酸を使って、嬉しい変化が

——では、その他に取り組まれていることはありますか?

一昨年から取り組みさせていただいているのですが、認知症の方が多いこともあって中鎖脂肪酸オイル(MCTオイル)摂取の取り組みを行っています。前述の栄養士・金谷を通して日清オイリオさんから研究のお話しをいただき、少しでも認知機能の改善になればということでスタートしました。

それまでは、認知症といえば介護の仕事という認識だったのですが、食事や栄養面からサポート・貢献できると知り、「これなら家庭でも認知症対応・対策に役立つ」と思って積極的に参加させてもらったんです。

——具体的な取り組み内容を教えてください。

アメリカでの事例を参考にし、週3回ご利用いただいていて、介護度2以上のアルツハイマー型認知症のお客様4名にご協力いただきました。ご家族には「薬療法とは違いますし、改善に有効という結果も出ていますのでいかがですか?」とお声掛けしました。みなさんとても協力的に参加くださいました。

具体的には、週3回の2ヵ月間、約12gのMCTオイルをデイサービス時のお昼ご飯に使って、召し上がっていただきました。無味無臭のオイルなので、お味噌汁に入れても味は変わらず、かえって油揚げを入れたお味噌汁のような、コクのある味になりましたね。

その他、ドレッシング代わりに野菜サラダにかけました。中鎖脂肪酸は体内に吸収されるとすぐにエネルギーになるため、以前から嚥下食にはよく用いていましたが、いろいろ試した中ではお味噌汁やドレッシングが一番合うと思います。

ツクイ浜松大平台の小野准さんのインタビューでの様子

——実際の取り組み結果はいかがでしたか?

長谷川式認知症テストでも記憶力や計算に関する改善はありましたが、それよりも驚いたのは、みなさん共通して会話が増えたことと表情が明るくなったことですね。帰宅願望や不安感がとても強い方がおられたのですが、その行為が激減し、午後からのレクリエーションへの参加率も格段にあがりました。

この表情や行動の変化は、介護スタッフが「今日MCTオイル食べてる?」と私たち調理員に聞きに来るほど違いがわかるんです。ということは、誰もが変化に気づくほど改善しているということになります。

また、摂取して1時間ぐらいで変化が表れるという、即効性にも驚きました。私の意見ですが、この働きは8時間ぐらい持続したのではないかと思います。その他、昼間の活動が活発になるため、夜はよく眠れるという効果もありました。

——目を見張るような効果ですね。

その効果は、MCTオイル摂取をやめた時に確信することができました。継続的に摂取していて改善していた方が、一時的にショートステイのご利用などで一週間くらい施設にこられず、摂取できない期間があると、明らかに摂取以前の状態に戻ってしまうんです。

医師ではありませんのでその辺の脳のメカニズムはよくわからないのですが、効果の有無は摂取をやめるとわかるなどの研究結果を、昨年2016年の認知症ケア学会大会でも発表させていただきました。同じような結果報告をされている研究者の方もいらっしゃって、よりいっそう確信が深まりましたね。

——広く知ってもらいたい内容ばかりですね。

そうですね。今回研究に参加されていない認知症のご利用者のご家族にも、このMCTオイルの働きをお伝えしたりしました。みなさん、少しでも改善が望めるなら、ということで摂取に前向きな方は多いと思います。

今、超高齢社会で認知症を発症される方も増えています。それにともなって莫大な医療費・介護費もかかってきますよね。このMCTオイルの働きはその低減の一助になるのではないか、と今回の研究を通して思いました。このような研究の場を与えてくださった方々に感謝したいですし、今後もどんどん参加していきたいと考えています。

中鎖脂肪酸イメージ
ココナッツオイル等に多く含まれる中鎖脂肪酸。無味無臭のMCTオイルも市販されている

子どもだましのレクリエーションは絶対にやらない!

——施設のスタッフの方みなさん明るい雰囲気ですね。

みんな明るくて個性も強いですね。そのなかでも飛び抜けて個性的なのが施設長です。とにかく面白いことが大好きで、あらゆることに挑戦的で、常に新しいことに目を向けている。事業所の広報誌は、まるで雑誌みたいな独創的な内容なんですよ。

そそんな施設長に刺激され、私たちも負けないように必死にいろいろ試行錯誤しています。ちょっとでも手を抜いたら、すぐに施設長からのチェックが入りますから。「子どもだましのレクリエーションは絶対にやらない!」「やるなら徹底的に!」というのが施設長のモットーです。

——「やるなら徹底的に」っていいですね、参加したい。

デイサービスはお客様に楽しんでもらうことも目的の一つです。ですから、明るく朗らかで、楽しませることが好きな人が集まっていますよ。と言いつつ、実際はお客様と一緒に私たちもたっぷり楽しんでいます。

レクリエーションやイベントだけでなく、食事のメニューにもそれを反映させて、いつでも食べられる献立ではなく、少しでも特別感を感じてもらえるメニューづくりに知恵を絞っています。最近だと、世間で流行中の「ガパオライス」をお出ししましたね。

——「ガパオライス」お客様の反応が気になります。

会話がとってもはずみましたね。「何それ?」「ドコの食べ物で、どんなモノ?」なんて、いろいろな意見や質問が飛び交いました。楽しんで食べてもらって、家に帰ってからもご家族に「今日ガパオライス食べたんだよ」などお話しくださり、その後のコミュニケーションに繋がっていけば嬉しいです。

——最後に、今後の展望や目標等を教えてください。

先にも述べたように、私たちの仕事はサービス業だということを忘れず、常にお客様のことを考えていきたいと思います。その中で、信頼関係をしっかり構築できるよう、誠心誠意の心を込めた応対をしていきたいです。

人生の先輩方は、何でもお見通しなんです。付け焼き刃やおざなりの行動はスグに見抜かれてしまいます。認知症の方も、私たちのことを本当によく見ていらっしゃいます。そのことを肝に銘じて、毎日を過ごしていきたいと思います。

それから、これはご年配者がおられる家庭へのお願いなのですが、週に1度くらい、おじいさんおばあさんの食べたいメニューを聞いてあげてほしいです。選ぶ喜びや食べる楽しさをご家庭でも味わえるように、なんとか考えてあげてほしいですね。

取材・文 たなべりえ

今回お話をうかがったのは

ツクイ浜松大平台デイサービス/調理員 小野 准さん(嚥下料理研究家)
ツクイ浜松大平台 調理員 小野 准さん(嚥下料理研究家)

ツクイ浜松大平台
訪問介護サービスやデイサービス、有料老人ホームなど、様々な介護サービスを全国展開しているツクイ。
ツクイ浜松大平台は静岡県浜松市で2012年にオープン。
年中無休で、専門職による機能訓練、選べる食事や多彩なイベントを特長としている。
選べる食事は、金谷節子氏のアドバイスも生かされた内容で好評を博している。

▼関連リンク
脳のエネルギー不足を助ける「中鎖脂肪酸」の働き

▼シリーズ「認知症に寄り添う人々」記事
第1回「若年性認知症の方の居場所をつくりたい」
第2回「生活支援につながる栄養ケアで負担を軽くしたい」
シリーズ「認知症に寄り添う人々」ダイジェスト

▼外部リンク
ツクイ公式サイト


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