【シリーズ改正道路交通法:3】自主返納の促進と返納後の支援

2017年2月27日

シリーズ改正道路交通法第3回は、改正道路交通法の施行とともに注目される高齢者の運転免許自主返納について解説します。

昨年の日本認知症学会学術集会での大阪大学の池田学教授、愛知県認知症疾患医療センター/八千代病院の川端信也教授の講演内容を取り入れながら、高齢者運転のリスクや自主返納後の支援などを紹介していきます。

道路交通法改正とともに注目される自主返納制度

高齢ドライバーの運転事故増加などを受け、改正されることが決まった道路交通法。それにともない、自動車運転免許の自主返納制度も注目されている。

自主返納制度とは、高齢者等が運転に不安を感じるなどで、自主的に運転免許の取り消し申請ができるというもので、平成10年から施行された。

自主返納の手続きは住所地管轄の警察署や運転免許試験場で行うことができ、有効期限内の返納であれば、過去に運転経歴があることを証明する「運転経歴証明書」をもらうことができる。

なぜ今自主返納が求められているのか

高齢になると運動機能や視力の衰えなどから事故を起こしやすい。さらに認知症を患っていた場合、注意力や情報処理能力も低下しよりリスクは高まる。

愛知県認知症疾患医療センターの川端信也教授によると、認知症患者のうち交通事故を起こす割合は2割。そんな中でも運転を続ける認知症患者は少なくなく、川端教授が請け負う患者でも4人に1人は、未だ運転停止に至っていないという。

こういった高齢者・認知症患者の運転事故を未然に防ぐ対策のひとつとして自主返納がある。

今回の道路交通法改正では、免許更新時や違反を起こした際に行われる認知機能検査で第一分類(認知症のおそれあり)と判定された場合、運転を継続したいのであれば臨時適性検査(専門医の診断)を受けるか、もしくは主治医の診断書を提出しなければならないこととなった。

第一分類と判定された場合、認知機能の低下が見られることは事実であるものの、自覚症状がなく、「専門医の診断」を受けることに、戸惑う場合も多いだろう。運転に関しては「習慣動作」として問題なく行っていることもあるからだ。しかし、注意力や判断力、情報処理能力の低下が見られるがために判定された第一分類の人々には、実際の認知症の有無に関らず、当然事故のリスクも付きまとうのだ。

この改正によって、認知症のおそれのあるドライバーをより早期に発見・対策できると考えられているが、一方で専門医への診察を要するドライバーの急増も懸念されている。

昨年12月から今年1月にかけて認知症診療拠点の医療機関(100機関)に朝日新聞が行った調査では、8割を超える機関が受診者急増による「診断の遅れ」と「専門医不足」を懸念しているという。調査を行った医療機関の3割程度が、現在でも新規患者の予約待ち期間平均「1ヶ月程度かそれ以上」という状況の中、診察を受けるまでの予約待ちがさらに長期化し、診断が遅れることも考えられるのだ。

事故のリスクの低減だけでなく、医療機関の予約や診察などのわずらわしさを考えても、医師にかかる前に自主返納について考えることも推奨されている。

自覚症状のなかったAさんの場合

現行の道交法でも、第一分類と診断されて何らかの違反を起こしたときには医師の診断が必要となるが、川畑教授によると、そういった患者は自覚症状もなく、医者にかかるのも「しぶしぶ」であるという。

川畑教授のもとに訪れたAさんは80歳。第一分類と判定されたのちに信号無視を起こし「しぶしぶ」医者にかかった1人だ。長年運転をしており、本人に自覚症状がないばかりか、共に暮らす妻も「衣服にも気を遣っておりおしゃれ」「畑仕事も問題なく行っている」「意欲の低下もない」と、日常生活に支障がないことを訴えた。

しかし、実際に記憶のチェックや簡単な計算問題を行ったところ、全く答えられないという状況が発覚し、運転は医者から見ても危ない状態である。にも関らず、本人や家族に自覚がないため、勧められた脳SPECT検査も拒否という状況となった。

このように運転が危ない場合にも、生活障害がないと自覚しづらく、家族も「認知症」の視点で患者を見ていない場合が多いため、受診自体を不本意に思う方は多いだろう。だが、生活障害がないのは、日々慣れている「習慣動作」だからということもある。第一分類と判定されたからには、認知機能の低下を意識することが重要なのだ。

この事実を受け入れるのは難しいことだが、結局Aさんは医者の熱心な説得に応じ、「深刻な事故を起こす前に」と、最終的には自主返納に至った。

自主返納による運転中止後の支援

自主返納促進の動きが高まっている中でも、やはり高齢者・認知症患者に即運転中止を求めるのは難しいのが現実だ。身体の機能が低下してくる高齢者にとって、車は日常生活に必要不可欠な「足」となっているケースが多い。交通機関の乏しい地方や市外に住む高齢者であればなおさらだろう。

そんな状況を改善すべく自主返納後の支援を国に求めてきたひとりが、大阪大学の池田学教授。池田教授によれば、支援を訴え始めた当初に比べ飛躍的に状況が変わっており、今ではさまざまな支援がなされているという。多くの市町村で行っているのが公共交通機関の割引。そのほか、地方によっても異なるが、宅配サービスの利用無料や商品の割引などの協賛店の支援も施策としてとられている。一例としては以下のものがある。

・バスの回数券の無料配布
・一部鉄道の利用無料
・タクシー利用券の無料配布
・宅配スーパーの利用無料
・自転車の割引
・メガネ店での一部商品割引

自主返納促進に向けて

長年、車を足としてきた高齢者にとって自主返納はやはり勇気がいるだろう。しかし、長年の運転による過信が高齢者の運転事故の要因のひとつとも言われている。高齢者全員が必ずしも運転不適合者であるわけではないことはもちろんだが、加齢により注意力や瞬間的な判断力が低下するのは事実だ。「自分はまだ大丈夫」という過信が思わぬ事故につながることもある。

とはいえ、前述したように、車を日常的に利用する高齢者にとって自主返納は簡単に決断できないことでもある。もしも自身で自主返納を判断するのが難しい場合は、警察署が設ける自主返納相談窓口やかかりつけ医に相談する方法もある。もちろん、身近な家族への相談から始めるのもよいだろう。

自主返納後の支援が広がっている今、改めて自身の運転について考えてみてはいかがだろうか。

▼外部リンク
朝日新聞「認知症診断、遅れる恐れ 改正道交法で受診者急増に懸念」


こちらのニュースもどうぞ

認知症最新ニュース アクセスランキング

  1. 1認知症患者は2025年に700万人を突破。65歳以上の5人に1人
  2. 2【今夜放送】林修の今でしょ!講座3時間スペシャル『男性VS女性S…
  3. 3認知機能の維持に希望の光!注目される「コリン」の効果とは[PR]
  4. 4【明日放送】NHKガッテン!「これが世界最先端!夢の認知症予防S…
  5. 5匂いで認知機能チェック!母の日、父の日キャンペーン中
  6. 6世界初「安定化DHA・EPA」を配合した飲料を販売開始
  7. 7医療・介護施設の徘徊対策に!少ない人手で効率的に守る「顔認証シス…
  8. 8【樋口直美さんインタビュー】 レビー小体型認知症は認知症というよ…
  9. 9細胞内の不良品タンパク質の分解メカニズムを解明
  10. 10認知症対策の国家戦略『新オレンジプラン』策定
このページの
上へ戻る