映画「八重子のハミング」スペシャルインタビュー②:升毅さん

2016年10月28日
   ©Team「八重子のハミング」

4度のがん手術から生還した夫がアルツハイマー病の妻に贈る、31文字のラブレター。

自らがんと闘いアルツハイマーの妻を介護する夫。
迫り来る死の影を見据えつつ、残された日々を共に歩む姿から、闘病、介護、そして夫婦愛を浮き彫りにし、著者である夫が詠んだ短歌とともに綴る。山口県・萩市を舞台に描く、夫婦の純愛と家族の愛情に溢れた物語。

認知症は、人によって症状が異なり、環境によってケアの在り方が変わります。
この映画では、12年という時間軸で認知症と向き合う夫婦を描きます。

認知症ねっとでは「八重子のハミング」公開特別企画として、
制作チームへのインタビューを不定期連載します。
今回は、長編映画初主演となる升毅さんにお話を伺いました。

原作者自ら宮司役を指導

―――撮影における印象深いエピソードを教えて下さい。

僕の演じた石崎誠吾という役は、この映画の原作者・陽信孝(みなみ のぶたか)さんです。

山口県萩市で学校の先生をしていて、のちに萩の教育長になるのですが、普段は〝金谷天満宮〟(かなやてんまんぐう)という神社の宮司さんをしていらっしゃるんですね。僕が、その宮司の役としてお祓いをしたり、祝詞をあげるというシーンがあって、それを実際に陽さんから教えて頂きました。

だいたいそういう場合には、専門家がいらしてその方に教えて頂くという事が多いのですが、今回のような特殊な役柄を、贅沢にも原作者自ら、しかもその役のご本人から、所作だったり言い方だったりを教えて頂き、生でその息遣いまでも見られたということは、石崎誠吾を演じる上で本当にありがたい体験でした。今後もこういうことは中々ないんじゃないかなと思いますね。

   ©Team「八重子のハミング」

映画を通した介護経験で得た「優しい気持ち」

―――八重子のハミングでは「認知症」が重要なテーマのうちの一つですが、升さんご自身の人生と、映画のストーリーが重なる部分はありましたか?

僕は「認知症」というものを、実際に、まだそこまで深く理解できていないと思います。

ただこの映画の中では、自分の奥さんの物忘れが激しくなって、今まで出来ていた事が出来なくなっていき、そしてそれを僕が手助けしていく…。例えば食事もそうですし、入浴もそうですし、トイレの介助も。家族ならばそういう事はするのが当たり前にしなきゃいけないと思ってますし、そう思われている方もたくさんいると思います。

でも、実際には本当に大変な事で。撮影の短い期間でも痛感しました。そういう〝当たり前〟であって〝当たり前でない事〟が、誠吾の言う「怒りには限界があるけれど、優しさには限界がない」というセリフに込められているのかなと。

「限界がない」というのは、「きりがない」という捉え方もできるのですが、ただそれは「優しさ」なのできりがなくていい事なんですね。 撮影を通して感じる一つ一つの事に「人ってこんなにも優しくなっていけるんだな」と思えました。

自分自身も、普段からできるだけ人に優しくありたいと思っているつもりですが、こうやって映画を通して介護を体験させて頂いた事で、もっともっと普段の色々な場面でこの〝優しい気持ち〟を自分の人生に重ねていきたいと思いました。

   ©Team「八重子のハミング」

「優しさ」を共有してほしい


――――映画の見どころなど、これから「八重子のハミング」を観る方に一言お願いします。

この映画は「若年性認知症をテーマにした作品」という捉え方はもちろんあるのですが、「八重子のハミング」では夫婦の愛情だったり、親子の優しさだったり、その優しい気持ちが孫や、そして家族だけではなく自分が暮らす地域のコミュニティーにまで広がっていくという作品です。

映画館の中でそんな〝優しさ〟を感じて、持ち帰って頂き、できればたくさんの方に共有していただけたらいいなと思っています。

「八重子のハミング」は山口県で10月29日より先行公開。17年に全国で順次公開予定。
次回は女優、高橋洋子さんにお話を伺います。

▼外部リンク
「八重子のハミング」公式サイト
公開スケジュール


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